確率論における同程度の確からしさ

【数学科】小林 久壽雄

確率の定義

 何らかの実験もしくは観測(試行)を行ったときの起こりうる場合(根元事象という)がN 種類であるとする(サイコロを投げるとき起こりうる場合は6種類で、N = 6 である)。また、確率を調べたい事柄(事象という)がk 種類の場合(根元事象)からなるとしよう。偶数の目の出る事象は3 種類の場合(根元事象{2},{4},{6})からなり、k = 3 である。

 古典確率論(初等確率論、組み合わせ論的確率論)において、確率は概ね次の2通りに解釈される。

1.ラプラスによる確率の定義(同程度の確からしらを用いた定義)

全ての起こりうる結果(N 種類)が同程度の確からしさで起こるならば

である。

2.統計的(経験的)確率の定義

一定条件の下で実験を繰り返し行う。実験回数nが大きくなれば、調べたいこと(事象)の起こる回数mの比率(頻度)も安定してくる。この値を事象の起こる統計的確率という。

注意 この2つの定義が同等であることは大数の法則から分かります。

確率論の起こり

 この確率の考え方はカードとサイコロを用いた賭博が流行していた15 世紀から16 世紀に遡る。賭博の問題が知識階級の間でも話題にされ、確率計算に興味を持つ数学者もいた。賭博の勝ち方計算も要求され、賭博のチャンスについての本も書かれていた。

 このような中で確率計算の機は熟していった。ジェロラモ・カルダノ(1501 年〜1576 年)は「偶然のゲームに関する本」の中で確率計算を扱っているし、ガリレオ・ガリレイ(1564 年〜1642 年)も確率計算について述べている。

 ポアソンは「賭け事に関する一つの問題が、一人の俗人から厳格なヤンセン教徒に提出されたが、それが確率論の起源であった」と述べている。当時有名な賭博師シュヴァリエ・ド・メレ(俗人)はパリの数学者たちに次の分配問題を尋ねていた。

分配問題1:「1 個のサイコロを8 回投げて、そのうち1回6 の目が出る」ことに賭けたゲームで、3 回投げて6 の目が出なくて、4 回目を投げる前にやむなくゲームを中止した。どのような割合で賭け金を分配したらよいか

 この質問を受けたブレーズ・パスカル(ヤンセン教徒)(1623 年〜1662 年)はピエール・ド・フェルマー(1601 年〜1665 年)との書簡のやりとりの中で、この問題を扱っている。この書簡のやりとりから確率論が始まったとされています。この中では、サイコロ遊びの分け前と賭け勝負の分け前が議論されていますが、サイコロ遊びの分け前においては「同程度の確からしさ」と「期待値」の考え方が現れている。また別の書簡では次の分配問題も扱われている。

分配問題2:最初に3 勝すれば勝ちとなるゲームをやむなく途中で中断した場合、賭け金の総額をどう分配すればよいか(2 人の技量は同等とする)。

 ここではより簡単な、ガリレイが貴族から受けた次の質問を考えてみよう。

ガリレイが受けた質問:
3つのサイコロを投げるとき、目の和が9 になる場合と10 になる場合とはどちらが起こりやすいか。

 貴族は和が9 になる場合は
(1, 2, 6), (1, 3, 5), (1, 4, 4), (2, 2, 5), (2, 3, 4), (2, 3, 4), (3, 3, 3)
の7 通り、和が10 になる場合も
(1, 3, 6), (1, 4, 5), (2, 2, 6), (2, 3, 5), (2, 4, 4), (3, 3, 4), (3, 3, 4)
の7 通りであるから、どちらに賭けても同じであると考えたが、経験上10 の方が有利なようだ。なぜだろう?

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