物理学科の学生実験の更新について

【物理学科】山元 一広

1. 概略

 物理学科の学生は、2年後期に物理学実験A、3年に物理学実験BとCの計3つの実習を行っています。これらの実習を通して学生たちは物理学への理解を深めることが目的です。前回はBの更新について説明しましたが、今回はCについて解説します。
 物理学実験Cは、6種類のテーマからなりますが、そのうち2種類は電気回路に関するもので、物理実験に必要な回路について学びます。残りの4種類は光もしくは電磁波に関するものです。このうちの1種類のテーマがレーザーであり、このレーザーの実験に新たにマイケルソン干渉計を2021年度に導入しました。それについて解説します。

 光の干渉という現象自体は高校の物理でも登場します。干渉計は光の干渉を利用した精密測定装置です。この装置の肝は物差しに例えると一目盛りが光の波長に相当することです。人間の目で見える可視光の波長はおよそ0.5㎛(1㎛は0.001mm)であるので、非常に細かい目盛りのついた物差しで測定することになります。

 干渉計にはいくつかの種類がありますが、本実験で導入したのはマイケルソン干渉計です(マイケルソンは1907 年ノーベル物理学賞を受賞しています。自然科学部門では初のアメリカの受賞です)。非常に多くの目的のために利用されていますが、基礎物理の観点から最も有名な2例は以下になります。
(1) マイケルソン・モーリーの実験(1887年):1905年にアインシュタインが特殊相対性理論を発表しましたが、この理論の前提となる光速度不変の原理(どのような慣性系から見ても光の速さは変わらない)の実験的基礎となっています。
(2) 重力波の検出(2017年にノーベル物理学賞):1915年にアインシュタインが発表した一般相対性理論から予言される重力波を2015年に初検出しました。富山大学は岐阜県飛騨市に建設された重力波検出器KAGRAのプロジェクトに参加していますが、そのミニチュア版をこの実験で体験することになります。

重力波検出器KAGRA。
富山大学から車で1時間程度の神岡にあり、富山大学も参加している
マイケルソン干渉計の調整風景

2. マイケルソン干渉計の原理

 マイケルソン干渉計の測定原理について説明します(図 1)。左のレーザーと書かれた光源から発せられたレーザー光(図では赤線)は中央部にあるビームスプリッターで直行する2方向に分割されます。その後それぞれのビームは鏡で反射され、再びビームスプリッターに戻ります。つまりビームスプリッターで分割された光は異なる経験をしてビームスプリッターで再結合します。再結合された光はスクリーンに投影されます。スクリーンに映し出される光は異なる経験をした2つの光の差となっています。 つまりビームスプリッターと2つの鏡の距離が等しかった場合、スクリーン上の光の強さは0になります。片方の鏡の位置がずれれば、スクリーン上の光の強さは周期的に変化します。鏡が一定の速さで移動しているとスクリーン上の光は暗くなったり、明るくなったりを繰り返します。(例えば赤の光だと波長はおよそ0.6㎛であるので0.3㎛)移動したことに相当します。 これを利用すれば鏡の位置の(1/3000)mmの変化を測定することができます。

図5
図 1:マイケルソン干渉計の概念図:レーザーから出た光(赤線)がビームスプリッターで分割され、
鏡で反射されて、ビームスプリッターで再結合してスクリーンに投影されます。

 以上の説明はエネルギー保存則を思い出すと少し奇妙に聞こえます。レーザー光源は一定のパワーの光を干渉計に注入していますが、鏡が動くことによってスクリーン上の光のパワーが変ります。極端な例をあげるとスクリーン上の光のパワーが0のとき光はどこへ行ったのでしょうか。この答えはビームスプリッターで再結合した光は全てレーザー光源にもどっています。ビームスプリッターと光源の間にもう一つのビームスプリッター②を入れて戻ってくる光を同時に見ることによって(図2)エネルギー保存則が成立しているか確認することができます。 スクリーン①上の光が明るくなったら光源に戻る光の一部が投影されるスクリーン②光は暗くなるはずです。

図2
図2:エネルギー保存則の確認:レーザーとビームスプリッターの間に新たなビームスプリッター②を入れて
スクリーン②にレーザーに戻る光の一部を投影します。

3. 富山大学の学生実験

 本実験の装置はThorlabsの教育用のマイケルソン干渉計キットです(https://www.thorlabs.co.jp/newgrouppage9.cfm?objectgroup_id=10107)
様々な実験が可能ですが、時間の都合上以下のような実験を行ってもらっています。

 (a) マイケルソン干渉計の組み立て:教科書を参考にしながら光源、ビームスプリッター、鏡を配置して干渉計を組み立てます。この干渉計は相対論の教科書なら必ず紹介されていますが、その説明だけ読むと適当に構成要素を配置すればよいと思うかもしれません。現実はそうでなく鏡の向きを適切かつ正確に調整し(アラインメント調整)、ビームスプリッターで再結合した光が進む方向とビームスプリッター上でのビームスポットの位置が高い精度で一致していなければなりません。このアライメント調整の重要性を学びます。例えば重力波検出器では速やかなアラインメント調整とその維持がキーとなっています。

(b) エネルギー保存則の確認:図2のようにスクリーン上の光と光源に戻る光を同時に観測することでエネルギー保存則、すなわち例えばスクリーン①での光が明るくなればスクリーン②が暗くなることを確認します。

(c) 波長の測定:干渉計の片方の鏡には位置を正確に調整できるステージがついています。このステージで鏡を移動させます(移動量はステージの目盛りでわかります)。明暗の一周期の移動量が波長の半分になるのでこれを利用して波長を見積もります。

(d) 熱膨張率の測定:固体棒を温めると長さが伸びます。1℃温度を上げたときの棒の伸びを棒の長さで割ったものを熱膨張率と読んでいます。これは物体固有の値です。これをマイケルソン干渉計で測定します。
 長さが9cmのアルミ棒をヒーターで温めます。アルミ棒の片方の端は固定されており、もう片方は鏡が付いておりこの位置を干渉計で測定します。30℃から50℃まで温度を上げて、その間の鏡の移動、すなわちアルミ棒の伸びから熱膨張率を見積もります。

このマイケルソン干渉計の実験はまだ導入したばかりであり、今後いろいろ改良を考えています。例えば熱膨張率の測定はアルミ棒以外の物を検討をしています。

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