富大から海外大学院進学へ

【富山大学大学院修士課程修了】原 和花

 昨年(2021年)の9月に富山大学大学院修士課程を修了し、11月からイタリアのカメリーノ大学の博士課程に進学しました。そこで、富山大学から海外の博士課程へのキャリアパスについて紹介したいと思います。私の場合、富山大学の修士課程を半年早く修了することで、ギャップイヤーを作らずに進学することができました。早期修了の制度は2021年度で終了ですが、その要件は第一著者の論文を一遍出版することでした。

1. 進学のきっかけ

 カメリーノ大学を知ったきっかけは、大学4年次の研究留学です。富山大学物理学科では、私の指導教員の畑田先生が獲得してくださった、JASSO(日本学生支援機構)による海外の大学(主に欧州)への短期留学制度(給付型奨学金付)があり、その制度を利用して、畑田先生の元職場であるカメリーノ大学に約2か月間研究留学しました。それ以来、共同研究を続けており、またカメリーノで研究したいと思っていました。

2. 研究内容&留学生活

 私が所属していた富山大学物理学科のナノ物理学研究室では、X線を用いた物性測定(X-ray Absorption Fine Structure、通称XAFS)に用いられる理論の開発及び、その理論を用いたXAFS計算プログラムの開発を行っています。これにより、原子レベルの大きさで物質の構造を調べることができます。4年次の留学では、その吸収端から高エネルギー側のスペクトルEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)に対して、カメリーノ大学で開発されているGNXASプログラムを用いて、特殊相対論効果がEXAFS信号に及ぼす影響について調べました。重い原子の場合、より強く原子核と電子が近づくので、電子の速さが光速に近くなり、相対論効果を考慮した計算が必要となります。帰国後、この研究内容をまとめ、第一著者として論文を一編出版しました。また、日本XAFS討論会(2021/9/1-3)で発表し、学生奨励賞を頂くことができました。(日本XAFS討論会)

友達の実家でラザーニャの作り方を習っているところ。
小麦粉を製粉するところから経験しました。

 私は、富山大学からカメリーノ大学へ留学した最初の学生であったため、人間関係を一から築いていかなければなりませんでした。それに加え、渡航時、私の英会話力は乏しく、日常会話ですら十分なコミュニケーションをとる能力はありませんでした。そこで、現地の学生と会話するきっかけを作るために、日本のお菓子や日本食を振る舞ったり、日本についての話をしたり積極的に会話できる環境を作りました。その甲斐があってか、友達ができ、観光に連れて行ってもらったり、実家に遊びに行ったりするなど貴重な経験ができました。さらには、カメリーノの先生から「和花が来てから、この研究室の雰囲気が良くなった」という言葉をもらったり、イタリアでは家族の行事だとされているクリスマスに友達の実家に招待してもらったりしました。次の研究テーマを提案してもらうこともでき、帰国後も共同研究を続けています。英会話力も必要ですが、現地の学生や教員と良好な関係を築くことで留学生活がより充実したものになると思っています。また、友達とのコミュニケーションを通して英語の能力も向上しました。


研究室のメンバーとのInternational food partyの様子。 イタリアのライスコロッケであるアランチーニ、蛇型のクリスマスケーキ(カメリーノ周辺ではクリスマスケーキは蛇の形)やサラミの型をしたチョコレートのドルチェ(Salame di Cioccolato)、ウイグルの餃子、インドのビリヤニやスープ、デザート、日本の手巻き寿司等、研究室の学生や先生たちと、出身国の料理を持ち寄り、パーティーをしました。

3. なぜ海外の大学院を選んだのか。

 前回の留学でたくさんの刺激的な経験ができたカメリーノ大にまた留学して勉強したいと思っていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行により、富山大学の修士課程在学中の留学は叶いませんでした。その際に、カメリーノ大学の教授から博士課程への進学の誘いを受けました。カメリーノ大にはたくさんの博士課程の学生やポスドク等同世代の人がたくさんいて、お互いに高めあえる環境があります。留学生も多く、世界中の様々な国についても知ることができます。前回の留学中に様々な国の友達ができたことで、世界中のニュースを調べるようになり、物理以外の知識もとても増えました。さらに、日本人はいないので、必然的に英語の能力も伸びます。また、欧州の博士課程は日本と違い、お給料がもらえます。経済面の心配をしなくて済むのも大きなメリットです。授業料もかからないか、かかっても少額です。メリット、デメリットどちらも考え、どの選択に私の心が踊るかに従い、受験することを決めました。試験の内容としては、まず、書類選考があり、今までの研究経験や博士課程での研究計画書、志望理由書、学部時代の成績や研究以外の経験(ボランティア等)について書きました。次に、書類選考通過後にオンラインでの英語面接があります。面接では、今までの研究内容の説明、今後の研究計画について話し、その後、面接官の人から質問をされ、それに答える形式でした。そして、書類選考と面接の合計点で合格が決まります。短期留学、博士課程進学共に、学部時代からの成績がとても重要視されました。また、研究能力だけでなく、人柄等も重要な採用ポイントになっているように感じました。前回の留学を通して、私という人間を知ってもらえていたのも合格できた大きな要因だったと思っています。

海外の大学院に進学することは、新しい挑戦ばかりで今後たくさんの困難に直面すると思っていますが、どんな困難も糧にして、成長して戻って来たいと思っています。

4. 最後に

 富山大学物理学科からカメリーノ大学への留学はXAFSといった物性の分野だけではなく、重力波検出器の開発といった宇宙物理の研究でも可能です。実際に、重力波に関する研究を行なっている学生もカメリーノ大へ研究留学しました。また、カメリーノ大学以外の様々な国の大学や研究機関への留学も可能です。どの研究室を選んだとしてもやる気と良い成績さえあれば留学できます。短期留学にせよ、進学にせよ、富山大学には世界への扉があります。この扉を開いて、世界へ羽ばたいてみませんか。

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