宇と宙,高次元

【物理学科】栗本 猛

 中国の古い文献によれば「宇」は空間の拡がりを表し,「宙」は過去・現在・未来の時間的な流れを表すといわれています.合わせると「宇宙」とは時間と空間をまとめた概念であり,現代物理学で時空間あるいは時空とよばれるものに対応します.普通,宇宙と言われると星や銀河を思い浮かべるでしょうが,物理学では空間・時間そのものの性質も研究対象となり,その典型的な例が相対性理論です.ニュートンの力学では,時間や空間は物体が存在するための容れ物であり,その中で物体がどのように運動するかを記述することが主題でした.その後, 電磁気学の発展とアインシュタインの相対性理論により空間そのものが物理的性質を持つと考えられ,電場や磁場,重力場は時空の物理的性質の表れと認識されています.

 我々の経験上では,空間が縦,横,高さの3 次元,時間が1 次元の合計4 次元の時空にいると感じています.次元というのはおおざっぱに言って,位置や方向を指定するのに必要最小な数値の数です.たとえば地球上のある1 点を示すには「緯度○○度,経度××度」というように緯度と経度という2 つの数値を示します.さらに高度△△ m まで示せばより正確に位置を指定できます.位置や方向を指定するのに3 つの数値で事足りる場合を3次元といいます.

図
3 次元空間

 では,我々の住む宇宙は本当に空間3 次元,時間1 次元の世界なのでしょうか?仮に空間にもう1 つ余計に次元があれば,その方向への移動を観測できるので空間の4 次元目はなさそうに思えます.しかし,もし空間の4 次元目は無限に広がっているのではなく,現在の科学技術では観測できないほど微小な領域に縮まっているとしたら(コンパクト化といいます),その次元は日常では認識されないことになります.図で示すために,普通の空間が2 次元の世界で考えてみましょう.xy 平面上の各点に微少な輪があると想像してみて下さい.この空間では粒子の位置はx 座標とy 座標,それと輪のどこにいるか(図中のθ) で示されます.輪の大きさは極めて微小なので通常の次元のようには観測されません.その代わりに輪の中をどう運動するかによって粒子の性質,たとえば電荷や質量など,が異なるように見えると考えることができます.

2次元平面上に微少な輪がのった空間
1つの輪での位置

 このような考え方をより発展させることで,様々な粒子の性質や相互作用の様子を説明しようという取り組みが現代の素粒子物理学で盛んに行われており,高次元理論あるいは余剰次元理論とよばれています.究極の統一理論の候補とされている超ひも理論は10 次元時空で記述されており,そこから派生するものと考えられる様々な素粒子模型で高次元を取り扱っています.

我々の科学技術が進歩すれば,これまで観測できなかった微少な領域の物理も実験で調べることができます.LHC とよばれる現在最も高エネルギーの実験施設では10-(18〜19) m という微小な領域を調べることができるので,近い将来もしかしたら高次元の証拠が見つかるかもしれません.

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