新ヘリウム液化システム導入

【物理学科】水島 俊雄

 ヘリウムというと、風船に入れるガスや声を変えるガスを思い出されるかもしれません。このヘリウムは-269℃( 絶対温度の単位ケルビンでは4.2 K )という極めて低い温度で液体になります。-273℃(これを絶対零度(=0 K )という)以下の温度は存在しないのでいかに低温かお分かりになると思います。この液体ヘリウムを研究には欠かせない冷却する液体(寒剤といいます)として使用されます。具体例を挙げると、超伝導磁石の冷却やマイクロ波検出器の精度を上げるためや、金属や金属間化合物の極低温下での電気抵抗・磁化・比熱・熱電能・熱膨張測定などの物理的性質の研究、また極低温分子気体の生成と基礎物理への応用研究といった幅広い分野で使用されています。この液体ヘリウムを作るための液化システム(液体ヘリウム製造装置)が現在更新中です。この更新によって多くの研究者に液体ヘリウムが供給され、富山大学の物性研究の発展が期待されます。

 液体ヘリウム製造装置は富山大学の極低温量子科学施設にあります。この施設は全学共同施設ですが、液体ヘリウムの使用は理学部の研究者が大半を占めているので、ヘリウム液化機更新にあたり理学部のホームページに記事を載せてもらうことにしました。富山大学で初めて液体ヘリウム液化機が整備され液体ヘリウムを供給し始めたのは1975年です。初年度の液体ヘリウムの液化量、供給量は640L、140Lでした。今から考えると随分と少ない供給量ですが、当時の液化機の効率は5L/hで、朝8時半から液化機を稼働させてもガスが液化されるのは昼の3時頃でしたので1日に液化できる量はせいぜい20L程度でした。現在もそうですが、専属の作業員はいないので物理学科からの技官および教員が液化作業に当たったことを考えるとかなりの重労働でした。その後も使用量が増加し続け、また液化機の故障が頻繁に生じるようになりましたので1988年2台目の液化機に更新されました。2台目の液化機は増加した需要に十分応えることができました。しかし、近年老朽化により液化効率が悪くなっており、かつスクイッドを用いた磁化測定装置、超伝導磁石を用いた希釈冷凍機など大型測定機器の導入や、小型装置でも活発な研究活動が行われるようになったため、それらの需要に十分応えることが出来なくなってきていました。そこで2台目が設置されてから23年目の今年、長年の要望であった液化機更新が国に認められて、この春新しい液化機が設置・稼働することになりました。今まではピストンを使い膨張・圧縮を繰り返し液化した液化機と違い、新しい装置は膨張タービン式で、コンピュータ制御による全自動装置ですので、液化を行う教員の教育・研究時間確保にも大いに活躍してくれると期待しています。

 新液化機はLinde社のL70型(写真1)で液化効率は純ヘリウムガスでは40L/hです。ヘリウムガスは有限な資源で、かつ高価であるため、実験に使用された液体ヘリウムはガスとなって回収されて、再度液化します。このように実験に使用した回収ヘリウムガスでは空気などが含まれるため効率が少し落ちて33L/hです。前液化機の効率は純ヘリウムガスでは30L/h、回収ヘリウムガスでは26L/hの能力でしたので、約1.3倍の能力アップとなります。今回の更新に伴い、利便性の向上のため、液体ヘリウムの使用の多い理学部に隣接する総合研究棟の横に液化機を設置する新しい建物も新築されました。(写真2)現在新液化機はその建屋の中にあり3月上旬の液化システムの完成を目指して細かい配管工事が着々と進められています。

図
図1:設置工事中の新液化機L70(手前と右側)
1500L液体ヘリウム貯槽(左側)

 既に書きましたように、使用した液体ヘリウムはガスとなって回収されます。これまでは約50Lのボンベ52本に回収されていましたが、新設備では500Lのボンベ10本に回収されることになりました。50Lのボンベの場合、3年に1度法令に定められた耐圧検査を受ける必要があります。外部でこの検査を受けるため回収配管からのボンベの脱着は重労働でした。しかし、500Lのボンベはいわゆる長尺と呼ばれ、カードルに組み込まれているため設置場所での検査を受けることができますので、脱着が不要となることを作業をしていた私たちは大変喜んでいます。大きな大学ではかなり前からこの長尺カードルを使用してきていました。1本だけを見るとまるでミサイルのようにも見えます。別の大学では、この長尺カードルを大型トラックで搬入している時、付近の住民からミサイルが運ばれていると警察に電話があったと聞きました。写真3は新建屋に搬入される長尺カードルの様子ですが、ミサイルの束と勘違いしても不思議でないかもしれません。おまけに写真に写れているような迷彩服の作業員がいればなおのことだと思います。

図2:新しくなった極低温量子科学施設に
5000L液体貯槽の移設作業。奥は総合研究棟
図3:長尺のボンベをクレーンで建屋に
設置する作業風景
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