自己組織化パターンと数学解析

【数学科】上田 肇一

自然界には,砂丘の風紋,雪の結晶,雲など様々な美しい幾何学的な模様が存在します.そのような模様は人工的に作られたものではなく,粒子や分子などの個々の要素が,基本的な物理法則に従って運動することで作られることから,自己組織化パターンと呼ばれています.そのような自己組織化パターンはどのような仕組みによって形成されるのでしょうか?ここでは,我々の身近な生物である貝を例に自己組織化パターンについて説明したいと思います.

 図1にある貝殻の模様を見てください.茶色い縞模様が規則正しく並んでいるのが観察できます.また,貝殻の大きさがある程度成長したときに,縞模様が分裂した形跡があることがわかります.ここで注目したいのは,縞模様がほぼ同じタイミングで分裂し,美しい模様を形成していることです.分裂がこれほどタイミングよく同時に起きているのを見ると単なる偶然の出来事というよりは,背後に何らかの仕組みがあると考えたほうが自然ではないでしょうか?(注:実際どちらが正しいかは未解決問題ですがここでは後者が正しいと思いましょう)

 貝殻の模様を作り出す化学反応過程は大変複雑でその詳細はわかっていません.しかし,図1でみられる縞模様の分裂過程は,実は次のような単純な(偏微分)方程式によって再現することができます.

図

ここで,UとVは色素にかかわる化学物質の濃度です.この方程式の物理的・化学的意味はとても単純です.赤い枠で囲んだ部分が化学物質の拡散現象,青い枠で囲んだ部分はUとVの化学反応に対応します.興味深いことにこの単純な効果の足し合わせで図1のような自己組織化パターンを再現できます(図2は計算機シミュレーション結果).ここでは詳細を説明できませんが,さらに一歩踏み込み,解析学の分野で発展してきた縮約理論と呼ばれる手法を用いると次のようなことを証明できます.

  • 縞は互いに反発的に移動し,縞は等間隔に近づく
  • 縞の分裂は縞間隔がある長さに達したときに起きる

 これらの結果から,縞が成長過程のあるタイミングで同時に分裂し,自然発生的に規則的な模様を生成することが理解できます.

 近年、自己組織化現象は様々な分野で注目されるようになっています。それと同時に数学理論の発展と現象の理解の深化が求められています。我々は自己組織化現象に対する理論構築を目指した研究を行っています[1].

【参考文献】

  1. K.Ueda and Y.Nishiura, Physica D, 241 (2012) 37-59

図1
図2 Vの値の高い領域が白に塗られています
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