作れます 誰ももたない 魔方陣 ~7は2と5に分けるのがよく似合う~

【数学科】東川 和夫

一番小さい魔方陣は 3 次の

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なるもので,古代中国で,亀の背に書かれた形で発見され[洛書]といわれています。この亀の背にある数は,点の個数で表現されています。中国において今でもこの魔方陣を [お守り]として使っています。中世ヨーロッパの [数秘術者]たちは,それを受継ぎ,事象を象徴する 7 天体それぞれに,次のように 7 個の魔方陣を宛がい,魔方陣に対応する事象の意味を持たせました:

天体土星木星火星太陽金星水星
魔方陣3456789

この並べ方は,次の特徴をもっています:天体を(日=太陽 として)円周上にこの順序に等間隔に並べ,曜日の順に線で結ぶと,ちょうど [七角星] になる。これらのことは,一般人のあいだにも浸透していたようです。例えば,木星魔方陣の 4 は,理想的なものに対する,現世的なものを表す数であり, [デューラー] の銅版画 [メランコリア I]の右上方に描かれた 4 次の魔方陣

163213
510118
96712
415141

は,画面上で現世的な物事を象徴しているといわれています。この魔方陣は,木星魔方陣の変形であり,変形することにより, 魔方陣の下段中央部の 2 コマで製作年の 1514 が来るようにしてあります。ここで,魔方陣が[ 完全] とは, 4 × 2 本の [一般対角線] 上にある数の和も定和になるという性質です。洛書の魔方陣は完全ではありません。

そして,建築家 ガウディ が設計したサクラダファミリアのキリスト像の左下に

114144
11769
810105
132315

なる方陣が配されられています。これは, メランコリア I の魔方陣を 180°回転したものの各行にある数のうち一番大きいものから 1 を引いて作られています。偶然にも,縦・横・斜めの和が(魔方陣のように)一定になり,その数がちょうどイエス・キリストの年齢 [33]になるようにしてあります。これは,同じ数が重複して使われているので通常の魔方陣ではありませんし,完全でもありません。

一方,津和野にある 安野光雅 美術館の入口の正面に

112138
156310
49165
147211

なる完全魔方陣の多くのコピーを無限を匂わすくらい広い壁を使って貼合わせ,所々に空白を入れて描いています。完全性をうまく利用しています。この無限個のコピーを張り合わせたものを,数学では元の魔方陣の [被覆](Covering)と言います。完全性から,何処に 4 × 4 の正方形をとっても魔方陣になっています。 4 次の完全魔方陣はこれと メランコリア I の他にあと 1 種類だけです。

 さて 21 世紀の 1 割が経過した今日,我々は

(ⅰ) pA 2B 2AB は互いに素な自然数, p が奇数,または
(ⅱ) pA 2 + 3B 2AB は互いに素な自然数, p が 3 で割って 1 余る奇数
であれば, ルーペ性 という性質をもつ p 次の完全魔方陣が,いとも簡単に作れるのです。このときの キーナンバー は,
(ⅰ) のとき, k 2 + 1,
(ⅱ) のとき, k 2 + 3 が
p の倍数になるような自然数 k のことです。そのような k は, p が素数のときは 2 つあり,加えると p になります。その 2 つを使って,あとは機械的に魔方陣を作ることが出来るのです。
(ⅰ) の場合の ルーペ性 とは,何処でもよいから A × A の正方形の数の和 S 1 と,その部分から対角線方向に一番離れたところにある B × B の正方形にある数の和 S 2 との和 S 1S 2 が魔方陣の定和になるという性質です。

  他方, (ⅱ) の場合の ルーペ性 は,以下の 2 種類あります:
(ⅱ-1) 何処でもよいから A × A の正方形の和と,その部分から対角線方向に一番離れたところにある 3B × B の長方形にある数の和との和が魔方陣の定和になるという性質と,
(ⅱ-2) 何処でもよいから A × A の正方形の和と, その部分から対角線方向に一番離れたところにある B × 3B の長方形にある数の和との和が魔方陣の定和になるという性質です。

  私は, 2009 年に不思議な体験をしました。
2009 = 72 × 41 ですね。
41 = 42 + 52 なので 41 次のルーペ完全魔方陣が作れます。
2009 年 2 月 5 日に,「ルーペ性というおもしろい性質をもつ 41 次の魔方陣」という授業を岩手県の衣川中学校でしてきました。今から 820 年前の 1189 年の「衣川の戦い」で 源義経 が自害しました。これらの数 2009,1189,820 いずれも 41 の倍数なので, 2009 年は何か不思議な縁を感じました。

 ちなみに, 松尾芭蕉 は, 1689 年(元禄 2 年) 5 月 13 日(旧暦) に平泉を訪れ,

夏草や  兵どもが  夢のあと

という句を 奥の細道 で残しました。 1689 年は 1189 年のちょうど 500 年後です。私は「奥の細道」行脚は,計算されて実行されたような気がして仕方がないのです。私にとっては,記念すべき「奥の新幹線」でした:

なごり雪  兵どもの  末裔よ

 また, 2008 年 12 月に,富山県の将来を嘱望された高校数学教師が志半ばに他界されました。私が彼を見舞った時の病室番号が 317 でした。彼と担当看護師の 3 人でルーペ魔方陣の話で盛り上がり,次来る時には 317 次の魔方陣を作ってくるという約束をしたのです。数日かけて魔方陣を作ったのですが,惜しくも彼はそれを見ることが出来ませんでした。それは,彼の葬儀の日に親族の方々の前で披露されました。
317 = 112 + 142 で,キーナンバーは, 114 と 203 です。その魔方陣に, 0 から 100488 までの全ての数が 3172 個のマスに配置されています。それは,縦 1 メートル×横 3 メートルの大きさになりました。定和は,

15927348 = 22 ・ 3 ・ 53 ・ 79 ・ 317

です。この数は,各桁の数字に 0 が無く,全て相異なる珍しいものです。実際, 8 桁の数の中で,そのような数になる確率は,

9! = 0.0036288 =  1
108275.5731922・・・

です。 276 個につき 1 個の割合です。しかも,使われていない数字 6 が,その数の素因数分解にも,使われていません。その意味では,超珍しいといえます。
  次の 2 つは, 7 次と 5 次のルーペ魔方陣の被覆の一部分です:

313947200922031394720922
431410255343743141025534
132312838461913231283846
4334144157244334144157
354518122722935451812272
1682133240481682133240
266303642171126630364217
31394720922031394720922
431410255343743141025534
132312838461913231283846
4334144157244334144157
354518122722935451812272
1682133240481682133240
81041622810416
192171301921713
123152461231524
20911218209112
11723514117235
81041622810416
192171301921713
123152461231524
209112182009112
 

 これらは,製作年度の 2009 が隣合わせにくるようにしてあります。我々のルーペ魔方陣の作り方では, 7 次の場合には ( 6 ! )2 × 2 個の, 5 次の場合には 122 個の自由度があるため,誰でも 自分の大事な 4 桁の数 の上 2 桁と下 2 桁を隣合わせにさせることが出来るのです。

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