表面プラズモン共鳴を利用したヘテロコア光ファイバー水素センサーの開発

【自然環境科学科】細木 藍

 インターネット回線の普及と共に、光ファイバーによる光回線は主流となりました。光ファイバーの素材は石英で硬いイメージがありますが、髪の毛くらいの細さにすると、とても柔軟になります。光ファイバーは、屈折率の高い物質(コア)の周囲を屈折率の低い物質(クラッド)で包んだような構造をしています。光はコア/クラッド境界で全反射しながら、コアの中を進むため、光によるデジタル信号を、遠くまで高速で送ることができます。同時に、光ファイバーコア内の光にアクセスできる加工を施し、光の変化を観察できるようにすれば、センサーとして使うこともできます。ここではその一例として、水素漏洩をモニタリングするために開発したセンサーを紹介したいと思います。

 水素は化石燃料に代わるクリーンで豊富なエネルギー源であり、特に水素燃料エンジンは二酸化炭素を発生させない無公害エンジンとして注目を集めています。2017年に発表された水素基本戦略(2023年6月に改訂)では、2040年までに年間で1200万トンの水素を導入するという具体的な目標が掲げられています。水素エネルギーシステムを実用化するためには、水素製造技術、貯蔵・輸送技術、利用技術および水素を安全に検知する技術が必要とされ、それぞれの技術的要求に対して研究開発が進められています。

 光ファイバーは細径、軽量、耐電磁誘導性の特徴を持つとともに、センサー部および信号の伝送路に電気的接点を有しないため、スパークによる爆発を引き起こす危険性がありません。そのため、光ファイバーによる水素センサーは、水素社会を実現する上で有用なセンサーデバイスと言えます。

 私が提案する水素センサーは、金(Au)、五酸化タンタル(Ta2O5)、パラジウム(Pd)の多層膜を円筒形上の光ファイバーに均一に形成することにより、マルチモード伝送しやすい近赤外光領域850 nmで動作可能なヘテロコア光ファイバー表面プラズモン共鳴(SPR)水素センサーです(図1)。ヘテロコア光ファイバーは、コア径の異なる一般通信用の石英光ファイバーを挿入・融着することによって作製するため、光ファイバー本来の機械的強度を保持ながら、センサー機能を簡単に付与できます。Au薄膜をセンサー部周囲に成膜することで、Au表面にSPRを励起し、水素感応膜であるPdの水素吸蔵・放出による誘電率の変化を捉えることができるようになります。従来の光ファイバー水素センサーは、Pdを単層で用いていたことから、時間応答性に課題が残るとともに、近赤外光領域でSPRを起こすことはできませんでした。

 Au 25 /Ta2O5 60 /Pd 3 nmを成膜したヘテロコア光ファイバーSPR水素センサーの水素4%に対する光損失応答を示します(図2)。Pd 3 nmといった極めて薄い膜を用いたにも関わらず、水素の吸蔵・放出に伴って光損失が変化し、Pdの水素吸蔵過程をリアルタイムに検知できていることがわかります。

 実用的な水素多点計測システムとして、時分割多重を利用して光ファイバー線路上の光強度分布を実時間で計測可能なインタロゲータシステムも構築しました(図3)。このインタロゲータと終端反射型ヘテロコア光ファイバーSPRセンサーを組み合わせることで、最大8点の水素多点検知を実現しました。

図1
図1: ヘテロコア光ファイバーSPR水素センサー
図2
図2: Au 25 / Ta2O5 60 / Pd 3nmの多層膜を形成した
ヘテロコア光ファイバーSPR水素センサーの水素濃度4%に対する光損失応答
図3
図3: 疑似ランダム符号相関方式を利用した水素多点検知システム。
近赤外光領域の波長840 nmを光源とし、最大8点のセンサーを同時に計測できます。
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