光ファイバーを利用したセンサーの開発 -地熱水中のスケール生成を評価する-

【生物圏環境科学科】岡崎琢也,倉光英樹

 光ファイバーは,今日の高度情報化社会における大容量・高速通信を支える上で欠かせない存在となりました。一方,この光ファイバーをセンサーとして利用する様々な試みがなされています。一般に光ファイバーセンサーは,耐水性,耐熱性,耐薬品性に優れ,遠隔地や狭い空間の情報を得ることができるといった利点があるため,様々な分析分野での応用が期待されています。現在,多様な光ファイバーセンサーの開発研究が進められていますが,その中でも,光ファイバーのクラッドと呼ばれる構造を取り除くことで,光の通り道であるコアを露出させた部分をセンシング領域とし,その周囲の光化学的な情報を得るものを全反射減衰型光ファイバーセンサーと呼びます(図1)。このタイプのセンサーは,光ファイバーのむき出したコア部分の表面を機能化することで,様々な物質の高感度測定に応用することが可能です。我々の研究室では,主にセンサーの選択性の向上を図ることで,環境分析分野で利用可能な新しい光ファイバーセンサーの開発に挑戦しています。ここではその一例として,地熱水からのスケール(水垢)生成を評価するために開発したセンサーを紹介したいと思います。

図1
図1 光ファイバースケールセンサーの構成

日本は地熱資源量が世界3位の地熱大国です。近年,国立公園の規制緩和や再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入などにより,地熱利用の動きが急速に高まっています。一方で,地熱流体(熱水や蒸気)に由来するスケールと呼ばれる付着物が,熱交換効率や流量の低下を引き起こし,地熱発電の発展に対して大きな妨げになっています(図2)。そのため,スケールの付着を防止する多くの薬剤や方法が開発されています。しかし,生成するスケールを評価する方法は,目視で生成量を計測したり,重量や流量から評価したりするものが一般的で,迅速,簡単,さらに低コストでリアルタイムに測定する手法は確立されていないのが現状です。

図2
図2 澄川地熱発電所で発生するスケール

 我々が開発したスケールセンサーは,光ファイバーのコアを形成する材料よりも屈折率の大きなスケールがセンシング部位に付着することで,光ファイバーの中での光の全反射が阻害され,伝播する光の強度が低下するというものです(図3)。リアルタイムに得られる光の減衰から,地熱流体からのスケール生成を間接的に評価します。

図3
図3 スケールが付着した光ファイバーセンサー表面から光が漏洩する様子

 開発したセンサーを用いて,長野県の松代温泉で現地試験を行いました(図4)。その結果,温泉水からのスケール生成に対して,数時間で応答を示すことがわかりました。現在,同学科の上田研究室からのご協力と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの研究助成を頂きながら,この光ファイバースケールセンサーの応用性を様々な地熱流体で検証しています。

図4
図4 長野県松代温泉での現地試験の様子(撮影:上田晃教授)
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