雪氷の広域変動傾向

【雪氷の広域変動傾向】杉浦 幸之助

 雪の季節です。ここで改めて考えると、雪とはどのようなものなのでしょうか。

「雪」とは、大気中の「氷」に水蒸気が直接、昇華凝結したものです。この雪や氷(雪氷)は、地表のエネルギー収支や水循環、大気循環パターンといった他のプロセスと相互に作用しており、地球システムの基本的な構成要素の一つです。雪氷の水当量や密度などの各種物理量とその時空間変動を地上で観測して正確に把握することは、全球気候モデルの予測精度を向上させること、レーダーや衛星観測による雪氷広域推定値の精度を向上させることなどにも重要です。またこれらの実態把握は、雪崩や吹雪などの雪氷災害・自然攪乱の適応対策にも必要不可欠です。さらに、山岳域の雪氷は、融雪水として地表水および地下水を安定供給する天然のダムの役割を果たしており、生活用水、農業・工業用水として利用される貴重な水資源の供給や農作物の生産管理といった観点からも貴重な情報となります。

 さて、昨年9月27日に公開されたIPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書の政策決定者向け要約では、特に20世紀末頃から近年にかけて及び21世紀末のこの雪氷の変動傾向について報告しています。これによると1,2、過去20年にわたり、グリーンランドと南極の氷床の質量は減少しており、氷河はほぼ世界中で縮小し続けていること、また、北極域の海氷および北半球の春季の積雪面積は減少し続けている(図1a, b)ことが高い確信度をもって記載されています。加えて21世紀に、世界平均地上気温の上昇とともに北極域の海氷の面積が縮小し厚さが薄くなり続ける可能性と、北半球の春季の積雪面積が減少する可能性は非常に高く、氷河の体積は世界規模でさらに減少するだろうとも記載されています。

 図1には北半球春季の平均積雪面積と北極域夏季の平均海氷面積の変動傾向に加えて、全球気候変化の指標として上昇傾向の全球平均海洋表層(0〜700m)貯熱量と全球平均海面水位の変動傾向も示されています。

図
図1観測された全球気候変化の指標1,2。(a)北半球における3〜4月(春季)の平均積雪面積、(b)北極域における7、8、9月(夏季)の平均海氷面積、(c) 1970年平均に対する全球平均海洋表層(0〜700m)貯熱量の変化(2006〜2010年で各データを合わせてある)、(d)最も長期間にわたり連続しているデータセットの1900〜1905年平均に対する全球平均海面水位(全データは、衛星高度計データのはじめの年である1993年で同じ値になるように合わせてある)。すべての時系列(色つき線はそれぞれ異なるデータセットを示す)は年平均値を示し、不確実性の評価結果がある場合は色つき陰影によって示されている。

 昨年度は雪氷に関して、いくつかの大きな出来事がありました。まず2012年6月には、積もった雪の集合体である積雪の月別の被覆面積を見てみると、北半球では6月史上最小記録となりました。続く7月には、グリーンランドの広大な面積を厚い雪氷で覆っている氷床の融解が進み、ほぼ全面(97%)が融解しました。さらに9月には北極域の海氷面積が最小記録を更新しました。さて、今年度はどうなっているのでしょうか?最近はインターネットを活用して各種データセットを入手することが比較的容易になってきました。興味ある皆さんは是非調べてみて下さい。  富山の雪氷の話題としては、2012年4月に立山・剱岳の3つの万年雪(小窓雪渓、三ノ窓雪渓、御前沢雪渓)が、国内初の現存する氷河として学術的に認められました。また立山には国内で確認されている数少ない永久凍土も存在します。

 気候システムはエネルギーバランスに成り立つ高度に複雑なシステムで、雪氷は地球のエネルギー収支に変化を及ぼすことから、気候変動の駆動要因となります。急速な変貌を遂げている雪氷の実態を捉え、変動メカニズムや雪氷変動と他過程との相互作用を解明し、さらに雪氷変動が起因する他過程への連鎖を解明することなどにより、今後はますます、気候システムや水循環における雪氷の役割が明らかになってくるでしょう。

  1. IPCC, 2013: Summary for Policymakers. In: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S. K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA.
  2. 気象庁, 2013: IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書気候変動2013:自然科学的根拠政策決定者向け要約-気象庁暫定訳(2013年10月17日版), pp. 45.
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