小笠原海域の明神礁周辺の海底熱水鉱床の調査

【生物圏環境科学科】丸茂 克美

 我が国を取り巻く領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた海の面積は世界第6位で、この海域からはメタンハイドレートや、レアアースを高濃度に含む海底泥、コバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床などの様々なエネルギー資源や鉱物資源が発見されています。

 私たちの研究室では鹿児島大学、国立環境研究所、海洋研究開発機構の共同研究者(写真1)とともに、文部科学省の「海洋資源利用促進技術開発プログラム」を実施するため、平成24年4月24日〜5月1日に海洋研究開発機構の曳航式無人潜水艇(ROVハイパードルフィン3000、写真2)で、小笠原海域の明神礁周辺の海底熱水鉱床の調査を実施しました(図1)。

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図1:海洋資源利用促進技術開発プログラムで調査を実施した明神海丘カルデラと明神礁の海底地形図

 この調査の目的は、海底熱水鉱床の熱水噴出孔から放出されている水銀の海水中での濃度分布や、海底熱水鉱床の硫化鉱物や海底堆積物、鉱床周辺の海水や生物(ゴエモンコシオレエビや、シンカイヒバリ貝など)に含まれる水銀の存在形態や同位体組成を調べることにあります。

 具体的には、海水中の水銀濃度をリアルタイムに計測する深海用水銀センサー技術の開発を行い、海底熱水鉱床の熱水噴出孔からどの程度の量の水銀が海水中に放出されているかを把握するとともに、水銀を含む海水を採取して0価の水銀や、硫黄や有機物と結合している水銀量を測定します。また硫化物や海底堆積物、生物に含まれる無機水銀や有機水銀の同位体組成を調べることにより、海底熱水鉱床を生成するマグマ起源の水銀の挙動を解明することを目指します(図2)。

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図2:水銀を用いた海底熱水鉱床探査手法の概念図

 水銀には質量数が196、198、199、200、201、202、204の安定同位体が存在しますが、こうした同位体比を水銀の指紋と捉えることにより、水銀の起源を特定することが可能なはずです。また水銀はメチル化して生物に濃縮する傾向がありますが、同位体レベルでこうした水銀のメチル化現象を調べることも重要です。水銀の同位体分析を行うためには、高精度なマルチコレクター型ICP質量分析計を使います。

 水銀を多く含む海底熱水鉱床は金や銀などの有価金属に富む傾向がありますので、水銀に富む海底熱水鉱床は金や銀の品位が高く資源開発に有利です。しかし水銀は生物濃縮する傾向がありますので、海底熱水鉱床の資源開発の際には環境への配慮が重要です。もし、海底熱水鉱床周辺の生態系が我々の身近にある水産資源とリンクするようなことがあれば、水産物を介した水銀中毒のリスクが発生してしまいます。従って資源開発のためにも、また環境保全のためにも水銀に関する研究は重要です。

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写真1:海洋資源利用促進技術開発プログラムの共同研究者
前列中央が著者、著者の左が富山大学理学部生物圏環境科学科4年生の藤本さん
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写真2:潜航準備中の海洋研究開発機構の曳航式無人潜水艇(ROVハイパードルフィン3000)
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