海藻を分解?するバクテリア

【生物圏環境科学科】中村 省吾

 海藻は,褐藻類(コンブやワカメなど),紅藻類(テングサやアサクサノリなど),緑藻類(アオサやアオノリなど)の3種類に大きく分けられます。そして,海藻は,そのまま食材として利用される以外に,それらに含まれるさまざまな多糖類が,増粘剤・乳化剤・安定剤などとして食品や化粧品の原材料に,また,抗腫瘍・血圧低下・高脂血症改善・血液凝固抑制などの機能を活かした医薬品などに利用されています。さらに最近では,バイオマス燃料の原料としても注目を浴びています。

 一方,そのように利用される過程で廃棄される未利用海藻残渣も多量に発生しており,その量は,ワカメだけでも年間20万t以上になると試算されています。また, 海洋の富栄養化や海藻養殖域の拡大によって,沿岸域へ漂着する海藻や異常発生する海藻の量も増え, それらが枯死・腐敗し, 悪臭を発生させる問題も増加しつつあります。現在, このような廃棄海藻や漂着・異常発生した海藻のほとんどが埋立や焼却処分されていることから,それらの減容化とともに再活用する方法が求められています。その一つとして,海藻そのものやそれに含まれる多糖類を,バクテリアまたはそれが産生する酵素によって分解し, 有用な機能性多糖類やその短鎖糖類(小分子多糖類)を産生することに大きな関心が寄せられています。

 海洋には,海藻を餌とする魚や貝,ウニなどの生物がいますが,バクテリアの中にも海藻を餌とするものがいるのです。私たちは,そのようなバクテリアを探索して,これまでに100株以上を見つけて保存しています。ここでは,それらの中で最も海藻を分解する能力が高いMyt-1株について紹介します。Myt-1は,図1に示したように,ワカメの目で見える断片をわずか1〜3日間で,元の形が認められないまで分解(細粒化)します。光学顕微鏡で調べたところ,多数の細胞で構成された藻体組織が分解され,個々の細胞(単細胞)に分離している様子が観察されました。また,電子顕微鏡での観察から,Myt-1は,体長約2μmの細胞の一端に1本の鞭毛を持つ細長い菌(桿菌)であることが判りました(図2)。そして,その遺伝子を解析した結果から, Saccharophagus degradans と同定されました。また, Myt-1は, 緑藻 (アオサ), 褐藻 (ワカメ, コンブ), 紅藻 (マクサ) の3種類全ての海藻を分解することが判り,廃棄海藻の減容化処理に有用なバクテリアであると思われました。さらに,各多糖類を用いた培養,ゲル電気泳動,ザイモグラムなどの実験から,Myt-1は,アルギン酸,セルロース,寒天,ラミナリン,フコイダンなど多種類の多糖を分解する能力を持っていることが判り,現在注目されている機能性小分子多糖類の産生にも有用であると考えられています。一方で,海藻の藻体組織の分解産物である単細胞体をウニのプルテウス幼生が摂餌し,多腕の幼生へと変態することも観察されています。したがって,Myt-1 は,廃棄海藻の減容化はもちろん,廃棄および養殖海藻などから機能性短鎖糖類やバイオマス燃料を産生するだけでなく,ウニなどの海洋生物の幼生飼育の餌料や海藻のプロトプラスト作製などに活用できることも期待されるようになっています。

 なお,この研究の一部が,平成23年1月25日の富山新聞と北国新聞で紹介されました。

図
図1:Myt-1によるワカメ藻体断片の分解。
左:Myt-1を加える前のもの
右:Myt-1を加えて3日後のもので藻体断片が見られないまでに細かく分解されている。
図
図2:Myt-1の透過型電子顕微鏡像。
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