ナノの世界で起こる共鳴と色

【化学科】西 弘泰

私たちの研究室では、光の波長(数百ナノメートル)よりも小さい、ナノ粒子とよばれる材料を取り扱っています。特に、金のナノ粒子を使うことが多いのですが、非常に不思議なことに、この粒子はいわゆる金色ではなく、鮮やかな赤色を呈します。色がつくということは、室内光(白色光)のうち、特定の波長(色)の光が吸収されていることを意味しています。さらに、粒子のサイズや形などを変えると、赤色以外の様々な色に変化します(図1a)。本稿では、上記のように金ナノ粒子が発色する原理である「プラズモン共鳴」(図1b、より専門的には局在型表面プラズモン共鳴)とよばれる現象を、なるべく簡単に、身近なものに例えて説明したいと思います。

図1
図1. (a)金ナノ粒子が分散した水溶液。色の違いは粒子のサイズや形状の違いを反映している。
(b)局在型表面プラズモン共鳴の模式図。

さて、皆さんは「共鳴」という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?最初に思い浮かべるのは、音叉を使った実験かもしれません。同じ高さの音を出す音叉を2つ用意し、一方を鳴らすと、他方が離れているにも関わらず勝手に振動しだすあの実験ですね(図2a)。この実験を見ると、共鳴というのはなんだか特別な現象のように思えますが、そんなことはありません。身の回りにも共鳴はたくさん潜んでいます。

図2
図2. (a)音叉を使った共鳴の実験。(b)ブランコに乗る子供とそれを押す大人。(c)水風船にゴムひもをつけたヨーヨー。

例えば公園で、ブランコに乗った子供とその背中を押す大人がいるとします(図2b)。大人が「ちょうどいいタイミング」で子供の背中を押してやると、ブランコが大きく揺れます。実はこれが、ブランコの振動と、背中を押すという動作が共鳴している状態です。タイミングがずれると大きな揺れはおこせません。

もう1つの例として、お祭りなどでよく見かける、水風船にゴムひもをつけたヨーヨーがあります(図2c)。ゴムひもを手につけて、「ちょうどいいタイミング」で手をつくと、水風船が大きく振動し、ヨーヨーとして遊ぶことができます。これは、水風船の振動と手の動きが共鳴している状態です。手をつく動作が遅すぎても速すぎても、ヨーヨーはできません。つまり共鳴は、振動するモノに「ちょうといいタイミング」で力を加えたときに起こり、その加えた力が大きな振動に変換される現象、と表現することができます。

さて、本題のプラズモン共鳴というのは、振動するモノが自由電子、加える力が光の電場としたときの共鳴で、基本的には上記ヨーヨーと同じように考えることができます(図3)。金ナノ粒子の中にはたくさんの自由電子があります。これは水風船に対応します。光は周期的に振動する電場を含んでおり、ナノ粒子に光が照射されると、自由電子はその電場と反対の方向に力を受けながら振動します(図1b)。光の電場振動が自由電子に与えるこの力は、水風船をつく手の動きに対応します。ここに、自由電子の偏りを元に戻そうとする力、すなわちゴムひもが縮む力が加わります。

図3
図3. 局在型表面プラズモン共鳴のイメージ。

このように考えると、光で自由電子を大きく振動させ、プラズモン共鳴を起こす(=光のエネルギーを自由電子の振動に変換する=光を吸収する)ためには、ヨーヨーをつく手のように「ちょうどいいタイミング(振動数)」で光電場が振動する必要があることがわかると思います。光の振動数は波長で表すこともできますので、「ちょうどいい振動数」は「ちょうどいい波長(色)」と言い換えることができます。これが、金ナノ粒子が特定の色の光を吸収し、鮮やかな色を呈する原理なのです。

では、吸収する光の色を変えるにはどうすればいいでしょうか。再度ヨーヨーの例に戻り、何を変えれば「ちょうどいいタイミング」が変わるか考えてみましょう。風船のサイズや形、風船の中の水の量、ゴムの強さ、空気抵抗などを変えると、手をつくタイミングが変わることが直感的にわかると思います。これらは、プラズモン共鳴では、粒子のサイズや形、自由電子密度、金属の種類、誘電率などに対応しています(図3)。そのため、図1aに示したように、粒子のサイズや形などを変えると、色が変わったというわけです。

いかがでしたでしょうか。今回は金ナノ粒子を例にお話ししましたが、分子や原子の光吸収にも共鳴が密接に関わっています。また、化学科には、光と相互作用する分子や材料を研究している先生が多くおられます。もし今回のトピックスに興味を持った方がいらっしゃれば、是非化学科の研究室の扉を叩いてみてください。

※図2および図3には、いらすとや(https://www.irasutoya.com/)の素材を使用させて頂きました。

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