ますます進展するパラジウム触媒の世界

【化学科】横山 初

 パラジウム触媒が今日に至るまで発展してきたその発端は、ワッカー(Wacker)法の存在を抜きにしては語れません。工業原料として多用途なアセトアルデヒドを製造するのに古来は水銀塩を触媒にアセチレンを水和する製法が用いられてきました。しかし、Wacker法の登場でエチレンからパラジウム触媒を用いてアセトアルデヒドが製造できるようになりました。(図1は、Wacker法の触媒サイクル。)

図1

 その後、2010年のノーベル化学賞にあるようにK.F.Heck先生のMizoroki-Heck反応、根岸英一先生のNegishi coupling反応、鈴木章先生のSuzuki coupling反応など、多くのパラジウム触媒を用いた反応開発が発展してまいりました。このような反応ではパラジウム触媒は0価から2価、さらに2価から0価の触媒サイクルが提唱されてきました。(図2は辻二郎先生とB.M.Trost先生のTsuji-Trost反応の触媒サイクル。)

図2

 しかし、近年、0価から2価、さらに2価から0価ではない、触媒サイクルを示す反応が多数報告されています。私たちの研究室でもパラジウム2価触媒を用いたアリルアルコールの活性化反応を見出してきました。(図3は、天然物ジエノマイシンC(dienomycin C)の合成に本反応が用いられている所です。) 本反応系では、パラジウム2価触媒でないと反応が進行せず、代わりにパラジウム0価触媒を加えると反応が進行しない事実が確認されています。今でも学会会場で「それはパラジウム0価触媒の反応ですか。」と質問を受けることもしばしばで、0価から2価、2価から0価の触媒サイクルではないのですが、2価から4価、4価から2価かとも言い切れないところが、ますます不思議で謎がさらに深まってきました。今後とも解明したい部分です。

図3

 また、私たちの研究室では、アルカロイドの共通部分の一種であるインドールをこのパラジウム2価触媒を用いて合成する方法も開発しました。これは、発光材料などに誘導できるカルバゾールの合成にも応用できます。今後もこのパラジウム触媒の世界はますます深まる謎とともに展開していくことが期待されます。(図4は、インドールとカルバゾールの合成)

図4

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