ちょうどいい強さをもった新しい有機酸化試薬の開発

【化学科】林 直人

われわれの身のまわりにある物質の大半は、有機分子または有機分子と無機イオンの複合体からなっています。それらの物質の機能や性質は、分子構造に強く依存しますので、狙った機能や性質を持った物質を得るためには、原料となる化合物を適切に変換して望みの分子構造へと導く技術の確立が不可欠です。

有機合成化学とは、そうした分子構造変換手法の確立を目的とした学問です。有機合成化学には、さまざまな研究分野が存在しますが、その主要なもののひとつに、「新しい反応試薬の開発」があります。今回ご紹介する酸化反応のための試薬(酸化試薬)の新規開発も、それに含まれます。

酸化試薬としては、高校の教科書にも登場する過マンガン酸カリウムや二クロム酸ナトリウムといった強力なものから、酸素のようにきわめて弱いものまで、様々なものが知られていますが、目的に適合した試薬を探り当てるのはそう簡単なことではなく、「ちょうどいい強さ(酸化力)をもった試薬」の開発が日々進められています。

私達の研究室では、クロラニル(下図。正確にはp-クロラニル)とよばれる有機化合物からなる酸化試薬(有機酸化試薬)に注目しました。クロラニルは、市販されており、広範な反応で用いられていますが、酸化力がやや弱いのが欠点です。一方、類似品に2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(通称DDQ)がありますが、こちらは酸化力が強すぎる場合が少なくありません。これに対して私達は、クロラニルを2分子結合した「クロラニル2量体」では、互いの共同効果により酸化力が増強されるのではないかと考え、実際に合成し、いくつかの酸化反応に用いてみました。すると、「クロラニル2量体」の酸化力は、クロラニルとDDQのおよそ中間であることがわかったほか、DDQを用いると、酸化力が強すぎて、いったん生じた酸化生成物がさらなる酸化を受けるような場合であっても、「クロラニル2量体」では最初の酸化生成物のみが効率的に得られることを見出しました。現在は、「クロラニル2量体」を、天然由来の複雑な分子構造を持った化合物の合成反応に応用することを検討しているところです。

図2

【参考文献】

  1. 配位化合物の電子状態と光物理、山内清語、野崎浩一編著、三共出版(2010年)
  2. Hayashi, N.; Nakagawa, H.; Sugiyama, Y.; Yoshino, J.; Higuchi, H. Chem. Lett. 2013, 44, 398–400. (http://dx.doi.org/10.1246/cl.121244)

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