化学と生物学をまたぐRNA研究の魅力

【化学科】井川 善也

RNAの多彩な機能

DNAには細胞の主成分である蛋白質の設計情報(遺伝情報)が書き込まれています。その情報は「DNA→RNA→蛋白質」という順で読み出されます。このようにRNAがDNAの情報を蛋白質へと変換する過程の「情報の仲介役」としての役割を果たすことは、1960年代に明らかにされました。

 しかし1980年代初頭「RNAの触媒機能(RNA酵素)」が発見されました(1989年ノーベル化学賞)。この発見からRNAはDNA(遺伝情報を保持する)と蛋白質(生体触媒としてはたらく)の能力を兼備することが示され、「生命の起源と初期進化」ではRNAを主体とした原始生命システム(RNAワールド)が中心的な役割を果たした、とする説(RNAワールド仮説)が提唱されました。

 近年の研究から、細胞内には予想されたよりもずっと多種類のRNAが存在し、多様で重要な役割を果たすことも明らかになりつつあります。RNA研究は現代生命科学のホットな主題であり、2006年と2009年には「ノーベル化学賞と医学生理学賞」の両方がRNAと密接に関わる研究(計4件)に送られました。このようにRNAは、化学と生物学をまたぐ研究対象として、創薬などへの応用の可能性からも、非常に注目される生体有機分子です。

RNAの機能を人工的につくる

上記の「生体内RNAの機能」の研究と相互刺激的に「生体内にはないRNA機能を人工的に生み出す」研究が、1990年代に始まりました。この研究は遺伝子工学の諸技術を巧妙に組み合わせ「突然変異→淘汰→増殖」という生命のダーウィン進化を模した新しい手法(進化分子工学法)を生み出しました。この手法はバイオテクノロジーの様々な分野で応用され、さらに先に述べた「RNAワールド仮説」を実験的に再現し「人工生命体」の創製を目指す、挑戦的な研究分野を生み出ました。我々の研究室では、「進化分子工学」をベースにした新しい手法を考案し、人工RNAを効率的に生み出す研究を行っています。

 私たちの研究は有機分子の化学を基礎として、化学の新しい潮流である生命科学分野への挑戦と融合を指向しています。現在「化学」と「生命科学」が融合した新しい研究分野が進展しています。私たちの研究はそれらの領域とも密接に関わっています。興味のある方はHPを訪れてください。

研究室HP: http://www3.u-toyama.ac.jp/orgsyn3/

図1
図: 酵素触媒機能や分子識別機能など、蛋白質に類似する機能を発揮するRNA分子たち。蛋白質と同様に特定の立体構造を形成する。
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