銅や銀の発光性の化合物

【化学科】柘植 清志

 発光性を示す化合物、と言うと、普段の生活からは少し縁遠く思えるかもしれませんが、紫外線ランプ(ブラックライト)をあてると様々な色に発光する絵画、夜店で売っている赤や緑に光る玩具、など、少し見回すと私たちの身の回りには、“発光”を利用している物があります。発光性の化合物は、絵や玩具のように、目を楽しませるために使われているばかりでなく、毎日誰もが使っている蛍光灯や、最近沢山使われるようになった発光ダイオードでも、明かり(可視光)を出すために発光性の化合物が用いられています。

 発光性の化合物は、有機物でも無機化合物でも合成できることが知られていますが、遷移金属イオンと有機配位子をから合成される遷移金属錯体も発光性の化合物として注目を集めています。遷移金属錯体は、発光ダイオードの素子として有利であるりん光を示す物が多いことに加え、配位子による発光色の制御が可能であることから、最近広く合成されるようになってきました。

 さて、これまでの研究の積み重ねから、現代の化学者は、化合物の見た目の“色”(つまり吸収する光の波長)を制御することは、かなり上手になってきています。遷移金属錯体の分野でも、例えば、“明日までに「鉄」で「赤色」の化合物を作って下さい”と言われれば、ちゃんと作ることができます。ところが、発光性に関しては、まだ、「好きな金属」で「好きな色の発光」を示す化合物を設計出来る段階には到達できていません。

 現在、強い発光性の化合物を与える遷移金属として研究されているのは、図1に示すように、マンガンと同族のレニウム(Re)、鉄と同族のルテニウム(Ru)、コバルトと同族のイリジウム(Ir)、その他、白金(Pt)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)など比較的限られた金属です。亜鉛、カドミウムを除くと、これらの金属は高価で貴重な金属ですが、より身近な金属である銅(Cu)や銀(Ag)の錯体も発光性を示すことが知られるようになってきました。最近の研究の結果、適切な配位子と組み合わせることによって、銅や銀でも非常に強い発光性を示す錯体が合成できることも明らかになってきました。我々も、色々な配位子を用いることにより、赤から青まで好きな色を示す化合物を合成できることを明らかにしました(図2)。このような銅や銀の化合物は、まだ安定性や溶解性など、改善しなければならない点も有りますが、安価で良く光る化合物として役に立つ日が来るかもしれません。

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図1.発光性の錯体を与える金属の周期表での位置。限られた金属が限られた酸化状態で発光性を示す。
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図2.ブラックライト下での銅錯体の発光。赤から青まで色々な発光を示す化合物を合成できる。
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