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Plant Cell Division 宇宙実験
- 宇宙環境が植物の細胞分裂に与える影響の解明 -
【生物科学プログラム】玉置 大介
月面での持続的な駐留を目標とするアルテミス計画の有人月周回ミッションである「アルテミスII」のオリオン宇宙船が,2026年4月に打ち上げられ,月面での持続的な駐留が現実のものとなろうとしています。月や火星など地球以外の惑星・衛星での長期滞在には,現地での食料となる植物の栽培が必要不可欠です。そのため,宇宙環境が植物の成長に与える影響の詳細を明らかにすることは,地球外での植物栽培の基盤技術の創出に大きく貢献できます。
植物の形づくりの基礎要素は細胞伸長と細胞分裂ですが(図1),微小重力環境が植物の細胞伸長に与える影響については,これまでの宇宙実験でよく調べられてきました。一方で,微小重力環境が植物の細胞分裂に与える影響は統一された見解が導かれていません。また,植物の細胞分裂において,細胞骨格タンパク質である微小管は,ダイナミックに動態を変化させ,将来の分裂面を決定する分裂準備帯(PPB)や,染色体を分離する紡錘体,細胞板形成を制御するフラグモプラストといった微小管構造体を形成し,細胞分裂における重要なイベントを進行させます(図2)。これらの微小管構造体の形成に微小重力環境が与える影響についても明らかになっていません。
タバコ培養細胞BY-2株の微小管・核可視化株において観察された微小管構造体像。マゼンダが核・染色体,黄色が微小管を示す。
そこで,私たちが計画・実施する「Plant Cell Division」宇宙実験(図3)では,国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力環境が植物の細胞分裂と分裂期に形成される微小管構造体形成に与える影響をISSに設置された顕微鏡を用いて解析し,遺伝子・タンパク質の発現解析から,微小重力環境における細胞分裂制御の仕組みを明らかにします。加えて,微小重力環境における藻類と陸上植物(タバコ培養細胞)の細胞内微細構造と遺伝子・タンパク質の発現比較から,植物の進化の過程における細胞レベルの重力応答がどのように獲得されたのか,その手がかりを得ることを目的としています。
富山大学理学部生物学科卒業生の山田瑞樹さんにデザインしていただいた。
「Plant Cell Division」宇宙実験では,タバコ培養細胞BY-2株(Nicotiana tabacum L. ‘Bright Yellow 2’)の野生型または蛍光タンパク質により微小管と核を可視化した株と,藻類であるコレオケーテ(Coleochaete scutata Brébisson)を実験に用います(図4)。この宇宙実験は,ISSの微小重力下で培養した植物試料の地球上への回収と解析を目的としたRUN1と,微小重力下でISSに設置された顕微鏡で細胞分裂の観察を行うRUN2に分けられています。RUN1実験では,2025年8月に,フロリダ州のケネディスペースセンターからSpX-33により植物サンプルをISSへ打ち上げ,同年9月に培養を実施しました。タバコ培養細胞は11日間,コレオケーテは13日間ISSで培養され,ISSでの保管後,翌年2月に地球に帰還しました。地球上へと回収された凍結サンプルを用いて,遺伝子またはタンパク質の発現解析を,化学固定されたサンプルを用いて,電子顕微鏡観察や蛍光免疫染色法による細胞内微細構造の解析を現在すすめています。RUN1のISSでの実験は,油井亀美也宇宙飛行士に実施していただきました。
RUN2実験は,2026年10月に実施予定であり,ISSの「きぼう」日本実験棟に設置された共焦点レーザー顕微鏡COSMICを用いて,ISSの微小重力下における植物の細胞分裂と微小管構造体形成の観察を行う計画です。RUN2実験では,COSMICを用いた観察により,ISSの微小重力環境下での生きた細胞の分裂の進行の観察と,微小管構造体の高精細な三次元イメージングを行います。COSMICによる観察時には宇宙飛行士の方に植物サンプルを顕微鏡ステージに設置していただき,地上からのコマンドによる遠隔操作により観察を行います。得られた画像データは地上にダウンリンクされ,解析に用いることができます。
本宇宙実験で得られる成果は,微小重力環境における細胞分裂制御の仕組みを明らかにするだけでなく,宇宙環境における食料供給システムの創出のための基盤技術に関する基礎的知見を提供します。特に微細藻類は,月面等における高度資源循環型食料供給システムのターゲットとして期待されており,本研究のコレオケーテの結果はそれに大きく貢献できます。更に,創出された基盤技術を転用して,地球上での効率的な植物生産システムの構築につなげることができると期待されます。