葉のない寄生植物はどのようにして適切な時期に花をつけるのか?

【生物学科】若杉 達也

植物は葉で日長を感受して花をつける

 植物の多くは特定の季節に花を咲かせます。そのような季節ごとの開花には、日長に応答して花芽を形成する仕組みが関わっています。日長に応答して花芽を形成する性質を光周性といい、長日条件で花をつける植物を長日植物、短日条件で花をつける植物を短日植物といいます。最近シロイヌナズナやイネといったモデル植物を用いた研究から、日長に応答した花芽形成の仕組みが明らかになってきています。

 長日植物や短日植物は、花芽形成を促す日長条件(長日植物では長日条件、短日植物では短日条件)になると、葉で花芽の形成を促進する物質が形成されます。この花芽形成促進物質はフロリゲンと名付けられていますが、その実体は長く不明でした。しかし、最近の研究から、フロリゲンの実体はFTタンパク質であることが明らかにされています。葉で日長の刺激を受け取ると、葉でFTタンパク質が合成され、FTタンパク質は師管を通って、花芽ができる部分(茎頂や脇芽)へと移動していきます。茎頂や脇芽に到達したFTタンパク質は、そこで花芽形成遺伝子の発現を引き起こします。その後、花芽形成遺伝子のはたらきで、花芽が作られ、花が咲きます(図1)。

図1 日長に応答した花芽形成

寄生植物ネナシカズラには根も葉もない

 私たちが研究している寄生植物ネナシカズラ(学名 Cuscuta japonica)の属するネナシカズラ属(Cuscuta)は、ツル状に生育し、宿主植物に巻き付き寄生します。種子から発芽したすぐ後には根のような器官が形成されますが、その器官はすみやかに枯れて、その名「根無し蔓」の通り、根がなくなってしまいます。根がなくても生きていけるのは、寄生根という器官を宿主植物に差し込んで、水分や養分を宿主から吸い取っているためです。植物は、葉で太陽光のエネルギーを光合成によって炭水化物に変換して、エネルギー源として利用しています。そのため、植物の生存には葉が極めて重要です。これに対してネナシカズラは、宿主植物が光合成で獲得した養分を吸い取っているので、自分自身の葉で光合成をおこなう必要がありません。そのため、ネナシカズラは根だけでなく大きな葉もありません(図2)。

図2 ネナシカズラの特徴

ネナシカズラ(C. japonica)は葉がなくても日長に応答して開花する

 一般の植物では、葉で日長の刺激を受けて花芽を形成します。これに対して、一般の植物のような発達した葉が存在しないネナシカズラでは、開花時期はどのように決まっているのでしょうか?

 これまでの研究から、ネナシカズラは短日条件で花をつける短日植物であることがわかっています(図3)。そこで、ネナシカズラで花芽形成促進にはたらくFTタンパク質の発現を調べたところ、FTタンパク質遺伝子は長日条件では発現せず、短日条件でのみ発現することがわかりました。また、FTタンパク質遺伝子が発現する場所は、退化した葉にあたる突起状の部分と花芽を形成する(退化した葉の付け根にある)脇芽の部分であることがわかりました。このことからネナシカズラでは、短日条件で葉に相当する器官と脇芽の部分でFTタンパク質が作られ、FTタンパク質が合成された場所の脇芽に作用して花芽を形成すると考えられました。ネナシカズラでは大きな葉がなくても、すぐ近くの脇芽に作用するだけの量のFTタンパク質は作られていると考えられます。

 ネナシカズラと同じネナシカズラ属の植物でも、アメリカネナシカズラ(C. campestris)は日長に応答した花芽形成は起きません(図3)。アメリカネナシカズラに近縁なマメダオシ(C. australis)では、宿主植物が合成したFTタンパク質を吸収することによって花芽が形成されるということが最近報告されており、アメリカネナシカズラでも同様の可能性があります。しかし、野外での観察では、宿主に花がついていなくてもアメリカネナシカズラが花や実をつけている場合も見られるので、アメリカネナシカズラの花芽を形成する要因については、まだ研究が必要だと考えています。

図3
図3 ネナシカズラ属の開花時期

ネナシカズラ(C. japonica)の開花は宿主の影響を受けない

マメダオシで報告されたように、宿主植物のFTタンパク質が寄生した植物にも花芽を形成させることができるなら、ネナシカズラでも宿主植物と同じタイミングで花芽をつけるかもしれません。そこで、短日植物のネナシカズラを長日植物のシロイヌナズナに寄生させて、長日条件で育てた場合、シロイヌナズナと同様にネナシカズラにも花がつくかを調べました。その結果、長日条件下ではネナシカズラに花芽形成は起きませんでした(図3)。このことから、ネナシカズラは宿主植物の花芽形成促進物質の影響を受けないことがわかりました。宿主植物から様々な物質を吸収し、その中には花芽形成促進にはたらくFTタンパク質も含まれていると予想されますが、ネナシカズラが宿主の開花の影響を受けずに独自のタイミングで花をつけているのはどういった機構によるものか、研究を進めています。

図4
図4 ネナシカズラの花芽形成は宿主の開花の影響を受けない

植物体内を移動するシグナルと寄生植物による異種植物への伝達

 植物は維管束を通して水分や養分といった生存に必須の物質を全身に運んでいます。植物体内を移動する物質には、エネルギー源だけでなく、RNAやタンパク質といった機能を持った分子や、体の一部から他の場所へシグナルを伝えるシグナル分子があり、植物全体が協調して環境に応答できるようにしています。

 ネナシカズラ属の植物は種の異なる複数の植物に寄生することができます。そういった場合、複数の宿主はネナシカズラ属の植物を介して連結した状態になります。最近、植物体内を流れるシグナル分子がネナシカズラ属の植物を経由して別の宿主に伝達されていることが報告されています。寄生植物ネナシカズラを研究することにより、FTタンパク質をはじめとする植物体内を移動するシグナル分子が異種植物でどのように機能するかを明らかにしたいと考えています。そういった研究によって、植物の成長をコントロールするシグナル分子を異種植物に供給する効率的な方法の開発につなげていきたいと考えています。

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