生きている化石「肺魚」から知る脊椎動物の進化

【生物学科】今野 紀文

 肺魚は、その名の通り肺を持った魚です。4億年もの昔(デボン紀)から現在まで、その形態的特徴を残しながら生き続けている「生きている化石」として知られています。肺魚類は系統学的にも両生類に最も近縁な魚類であり、魚類から両生類への進化を理解する上で重要な生物です。肺魚類は世界に6種のみが生存していますが、一部の種を除いて非常にユニークな環境適応能力をもつことでも知られています。肺魚が生息する地域は周期的に雨季と乾季が繰り返され、雨季では普通の淡水魚と同様に水中生活をしていますが、川の水が干上がる乾季になると土の中に潜って繭をつくり夏眠(Estivation)という乾燥に対する適応行動をとります(図1)。この肺魚の夏眠(陸生適応)が脊椎動物の進化、特に水生(魚類)から陸生(両生類)への進化に重要であったことが明らかになってきました。

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図1. アフリカ肺魚(Protopterus annectens)の水生時と夏眠時の姿

 陸上進出を果たした最初の脊椎動物(原始両生類)は、かつて水中生活を営んでいた肺をもった魚(ユーステノプテロンなどの肉鰭類)から進化したと考えられています。水生から陸上への適応には呼吸様式の変化や重力に耐えうる骨格の発達などの形態的変化に加えて、陸上という常に体内水分の喪失に晒される環境で、如何に体内に水を保持するかが重要となります。両生類から哺乳類までの陸上動物にはバソプレシン-V2受容体-水チャネル系という水保持機構が腎臓に備わっており、私たちは腎臓で尿中のほとんどの水を再び体へと回収することで水分の喪失を抑制しています。しかし、私たちの祖先が、いつ、どのように、この仕組みを獲得し、陸上への適応を可能にしたのかについては明確になっていませんでした。

 私たちは、肺魚にもバソプレシン-V2受容体-水チャネル系という水保持機構が備わっており、夏眠状態下でのみ働いていることを発見しました。この仕組みに関わる遺伝子群は肺魚類よりも原始的なシーラカンスにも存在することが示唆されましたが、軟骨魚類や他の硬骨魚類(条鰭類)では見つかりませんでした。つまり、肺魚の夏眠は、太古の私たちの祖先(肺をもった魚)が水中生活から陸上生活へと移行するための第一段階であったのかもしれません(図2)。このように、肺魚は私たちの祖先が辿ってきた進化の過程を教えてくれる大変興味深い生き物なのです。

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図2. 脊椎動物の陸生適応と水保持機構の進化

 最近、これまで困難であった肺魚類のゲノム情報が解読されたことにより、四肢や肺、心臓の形成に関わる研究が進められています。近い将来、魚からどのようにして両生類が誕生したのかといった進化の謎が次々と明らかにされることでしょう。

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