ゼブラフィッシュの脳梗塞モデルに対するヒトの脳梗塞治療薬の有効性の検証

2021年12月4~5日に行われた日本動物学会 令和3年度中部支部大会において大学院理工学教育部 生物学専攻 修士課程2年の善端さんが大学院生発表 優秀発表賞を受賞しました。

受賞者

善端 大貴さん(大学院理工学教育部 生物学専攻 修士課程2年)

学会名

日本動物学会 令和3年度中部支部大会(富山大会)
 (2021年 12月 4日・5日 オンライン学会)

題目

ゼブラフィッシュの脳梗塞モデルに対するヒトの脳梗塞治療薬の有効性の検証

研究業績成果の概要

脳梗塞は脳の血管が閉塞することにより虚血状態が誘導され脳組織が壊死する疾患であり、重篤な後遺症を引き起こすことから病態の解明が求められている。脳梗塞研究はこれまでに、げっ歯類の脳梗塞モデルを中心として病態メカニズムおよび治療法の開発が進められてきた。しかし、げっ歯類の脳梗塞モデルは、脳梗塞発症に伴う高い死亡率や重篤な後遺症の発症などによる動物倫理的な問題や、頸部血管の処置や頭蓋骨の除去をはじめとした高度な手術技能の習得が必要である点、実験動物の維持や手術器具・装置に要するコストの高さなどが問題となっていることなどの諸点から、非哺乳類を用いた簡便で再現性の高い脳梗塞モデルの確立が望まれている。近年、げっ歯類を代替する低コストで動物倫理面からも優れた脳梗塞モデル動物としてゼブラフィッシュ (Danio rerio) が注目されている。これまでに所属研究室では、ゼブラフィッシュに対しげっ歯類の脳梗塞モデル作成方法の一つである光化学誘導血栓法を用いることで脳梗塞を誘導できることを報告した (林, 2016年度卒業論文)。しかし、ゼブラフィッシュに対する脳梗塞治療薬の有効性を評価するためには、行動学的解析によって神経症状 (片麻痺などの運動機能障害) の改善を評価する必要があるが、ゼブラフィッシュの神経症状評価系は確立されていない。このことから、ゼブラフィッシュの脳梗塞モデルが脳梗塞治療薬の評価に適するのかについては更なる検証が必要である。

そこで本研究では、脳梗塞発症後に生じる片麻痺などの特異的な症状から脳梗塞による神経症状を評価するための行動評価系を構築した。さらに、ゼブラフィッシュがヒトの脳梗塞治療薬の有効性を評価可能か検証することを目的とし、脳梗塞を誘導したゼブラフィッシュへのヒトの脳梗塞治療薬投与による有効性を評価した。はじめに、神経症状評価系の作成に取り組んだ。脳梗塞発症後の運動機能の変化に応じてスコアリング方式で神経症状を評価した結果、脳梗塞体積と神経症状スコアの間において有意な相関関係が認められた。魚類を用いた脳梗塞発症後の運動機能を評価する評価系は本研究ではじめて作成されたものであり、この評価系を用いることで、ゼブラフィッシュにおける脳梗塞治療薬の有効性を従来の組織学的側面だけでなく運動機能の回復を評価する側面からも評価することが可能となる。続けてヒトの脳梗塞治療薬であるt-PAを投与することで脳梗塞が改善するか検証した結果、用量依存的に脳梗塞発症率および脳梗塞体積、さらに神経症状スコアが減少した。また、t-PAを投与したゼブラフィッシュの脳を用いて血液標本染色法の一つであるライト・ギムザ染色を行い、血栓の有無を観察した結果、t-PAの投与によって血栓様構造の数が減少した。以上のことから、t-PAはゼブラフィッシュにおいて血栓を溶解することで脳梗塞の進行を抑制することが示された。

今後は、この脳梗塞モデルを用いて血栓溶解とは異なる機構を有する治療薬や、脳梗塞治療への応用が期待される物質の有効性を評価する予定である。本研究は2021年度笹川科学研究助成を受けて実施した。

脳梗塞誘導方法の模式図
ローズベンガルを投与したゼブラフィッシュに対し、励起光を照射することで
血管内での活性酸素の産生を促し、血栓形成を誘導することで脳梗塞を誘導する。

受賞報告と研究者コメント

本研究成果を日本動物学会中部支部大会富山大会 (2021年12月開催) において報告したところ、優秀発表賞をいただくことができました。本研究テーマは先行研究が少なく、一つ一つの課題を地道に解決しながら取り組んできたことから、この賞を受賞でき大変うれしく思っております。ここまで研究を進めることができたのは指導教員である中町智哉先生をはじめとした先生方の手厚いご指導や研究室のメンバーたちの協力があってこそだと思っております。最後となりますが、この場をお借りして感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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