“生きている化石ヒトデ”の進化系統学的研究

【生物学科】小松 美英子

 棘皮動物門は,5放射相称の体(5つの同等な部分が放射状に配列した体のつくり),炭酸カルシウムを成分とする骨格,水管系を持つ特徴ある海産無脊椎動物群で,約7,000の現生種と13,000の化石種から成る(Pawson, 2007)。現生する棘皮動物門は,普通,ウミユリ綱,ヒトデ綱,クモヒトデ綱,ウニ綱,ナマコ綱の5綱から成り,約5億9千万年〜4億5千万年前のカンブリア紀からオルドビス紀に出現したと考えられている(Smith, 1998)。ヒトデ鋼は体ヒトデ亜綱と真ヒトデ亜綱に分けられ,体ヒトデ亜綱は主にオルドビス紀の化石種で占められ,約2,000の現生種(藤田,2000)が真ヒトデ亜綱に属する。

 “生きている化石ヒトデ”と呼ばれるヒトデはメキシコ南西部,テワンペック(オアハカ州)で採集され,1871年にGrayがモミジガイ科(ヒトデ綱)のモミジガイ属に近縁であると考え,本科にPlatasterias の新属を作り,新種P. latiradaiata として記載した。本種は,全体の直径が15cmほどのサイズで,体が非常に扁平で,腕が花弁状の綺麗な形である(図1)。体色は背面(反口側)が暗褐色で,各腕の基部から先端に向かって1本の淡褐色の筋模様がみられる。腹側(口側)は淡朱色である。反口側と口側が朱色で縁取られている。

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図1.“生きている化石ヒトデ”;反口側 (左),口側 (右)

 本種は,現在Luidia latiradiata(Gray,1871)としてスミソニアンの国立自然史博物館(アメリカ・ワシントンD. C.)に登録されおり(Mah, 2009),Grayが命名したPlatasterias属からスナヒトデ属Luidia (1属でスナヒトデ科を構成)に移されている。このように本種の分類学位置は,これまで多くの研究者によって考えられてきた。Grayの報告後,Spencer (1951)は,化石棘皮動物の比較形態学的研究により,化石としてでてくる初期のヒトデ類がヒトデ類とクモヒトデ類の両方の祖先型であり,その祖先型を体ヒトデ亜綱Somasteroideaと呼び,ヒトデ綱の中にヒトデ亜綱,体ヒトデ亜綱,クモヒトデ亜綱を置いた。Fell(1962,1963)は本種の骨格と消化管などの内部形態を観察した結果,Spencerの考えをさらに発展させ,本種が体ヒトデ亜綱に属する唯一の現生種であり,4億数千年前の初期オルドビス紀から生きてきたと結論した。その後,Casoは 1970年に本種が南メキシコのタパチュラ(チアパス州)の浅瀬に生息することを確認し,骨格系の詳細な形態学的観察を行い体ヒトデ亜綱に属するというFellの説を支持し,1972年に本種を“生きている化石ヒトデ”と呼んだ。

 しかし,Blake (1982,1982)は,Fellが観察した骨格について,本種,化石種,およびスナヒトデ科で詳細に比較し,本種が化石種より真ヒトデ亜綱のモミジガイ目Paxillosidaのスナヒトデ科の一種と報告した。

 以上のように,Casoによって“生きている化石ヒトデ”と呼ばれた本種の系統分類学的位置は,クモヒトデ綱と近縁と考えるか,またヒトデ綱の体ヒトデ亜綱あるいは真ヒトデ亜綱,さらに真ヒトデ亜綱のモミジガイ科あるいはスナヒトデ科のいずれに属するかなど研究者によって異なる。その理由の一つとして,本種の採集記録が非常に少ないことが挙げられ,いまだに本種の分子系統学的研究は行われていない。

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図2.メキシコ南西部(タパチュラ沿岸)での採集風景

 当研究室ではCasoの報告以来約40年ぶりの2008年に,彼女が採集したタパチュラ沿岸でメキシコ国立自治大学との共同研究によって本種の採集に成功した(図2)。それゆえ,棘皮動物門5綱の各綱から約10種と本種,および外群として半索動物門や脊索動物門の海産種について遺伝解析を行い,棘皮動物門における系統分類学的位置を考察した。日本DNAデータバンクからの分子情報を取得したが,分子情報の得られなかった種の塩基配列は本研究で解析し,全55種について近隣結合法と最尤法で分子系統樹を構築した。その結果,本種は,18SrDNAと16SrDNAにおいてヒトデ綱のクレードに含まれ,クモヒトデ綱など他の棘皮動物との近縁性は認められなかった。また,18Srと16SrのDNA,およびCOIによってスナヒトデLuidia quinaria やヤツデスナヒトデLuidia maculata をはじめスナヒトデ属の種と単系統群を形成した。

 以上より,本種はFellが提唱したように体ヒトデ亜綱の唯一の現存種ではなく,またCasoのように本種を“生きている化石ヒトデ”と呼ぶことは妥当でないことが示唆された。

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