教員と研究テーマ

佐澤 和人 講師

土壌環境学・環境化学

「分析化学」を基盤とした環境中の化学成分(主に天然有機成分)の評価とそれに関連した新規分析手法の開発に取り組んでいます。

インドネシアの泥炭火災跡地

土壌有機物質は陸域最大の炭素貯蔵庫として知られており、地球上の炭素サイクルを明らかにする上でその化学的特性は重要な情報となります。わたしたちの研究室では、国内外の森林土壌を対象にした野外調査、室内実験から温暖化や森林火災といった周辺環境の変化が土壌有機物質の化学的組成に及ぼす影響を分析化学の観点から明らかにすることを目標に研究を行っています。

泥炭火災が土壌有機炭素に及ぼす影響

大規模森林火災は温暖化、乾季の長期化によって増加する自然災害の一つであり、現在、全地球規模で深刻化している環境問題の一つです。また、多くの研究者によってこの問題は長期化することが指摘されており、環境に与える影響評価と対応策の提示が重大な課題となっています。

泥炭は植物の遺骸が未分解のまま堆積することで形成される、有機物質に富む土壌です。インドネシアには熱帯泥炭地の50%以上が分布しており、世界有数の泥炭保有国として知られています。同地では農地開発が急速に進んでおり、乾燥化した泥炭に着火することで発生する「泥炭火災」は膨大なCO2排出源として全球規模の問題となっています。

私たちの研究室ではインドネシアの熱帯泥炭低湿地を対象に、火災が土壌有機物質の化学的特性に与える影響を評価しています。さらに、火災時に生じる土壌有機炭素の損失と化学的組成変化に関する詳細な知見を得ることを目的に、泥炭を実験室内において異なる条件で加熱し、その残渣について分析を行っています。また、森林火災時に土壌から発生する煙霧に含まれる燃焼副生成物の環境中での動態変化やリスク評価に関する研究にも着手しています。

インドネシア熱帯泥炭火災跡地におけるサンプリングの様子
泥炭火災により発生した煙霧の様子

試料の色彩変化を利用した環境評価法の開発

分析対象物質の色情報を利用した定量手法は様々な分野において広く用いられています。その分析手法の一つである色彩色差計は、我々が認識している色を数値化することが可能な装置であり、簡便迅速な現場測定に適しています。これまでに、私たちの研究室では色彩色差計による環境試料の色情報を用いた、簡易的な評価手法の開発に取り組んできました。

土壌の燃焼の程度を火災後の土色から評価する手法の概要図
① 火災後の土壌の色から森林火災の燃焼状況を推測する:

大規模な森林・原野火災は広大な森林資源を消失させるだけでなく、その足下に存在する土壌環境にも重大な影響を及ぼすことが報告されています。火災時における土壌の燃焼温度の違いは、土壌環境変化の支配的要因ですが、火災跡地の土壌から燃焼状況を知ることは困難でした。そこで私たちは、森林火災による土壌の燃焼状況を土色の分析から簡便・迅速に推測可能な手法の開発を試みました。

実験室内において加熱した土壌を分析した結果、加熱温度、時間の増大と共に土壌の緑、青色の色彩値が強くなり、その変化は着火温度以上で顕著であることを見出しました。さらに、その色彩値の変化は炭化の指標となる土壌のH/C、O/Cと強い関係性を示すことが分かりました。これは、火災跡地の土壌を色彩色差計で分析することで、火災による土壌の着火の有無、および、炭化の程度を迅速・簡便にみることが可能であることを示しています。

(A)調査地から得た空撮画像の積雪表面について解析した結果
(B)空撮画像の色彩値(b*―a*)と現地で採取した積雪表面に含まれる硫黄粒子との関係
② “目に見えない”火山性ガスの拡散を“目で見える”積雪表面に付着した硫黄粒子の色から推測する:

火山性ガスに含まれる硫黄成分は強い毒性を有することから、その放出量や拡散を観測することは環境影響評価において重要です。これまでに、火山性ガスの様々なモニタリング手法が報告されていますが、多雪山岳地における火山性ガスの拡散を評価した研究はありませんでした。この理由として、観測機の定点設置が困難であることや、天候による影響を受けやすいことがあげられます。私たちの研究室では、火山性ガス噴気活動の活発化が報告されている富山県・弥陀ヶ原火山を対象に積雪表面の色彩を利用した火山性ガスの拡散評価法の開発を試みました。

現地において積雪表面の色彩を直接色彩色差計で分析した結果、噴気孔に近い積雪表面では黄緑色の色彩値(Δb*ーΔa*)が強くなっていることが分かりました。また、分析の結果、雪表面に生成した粒子状物質から硫黄に由来するピークが検出され、積雪表面の色彩値と良好な関係性を示すことを見出しました。この手法を広域モニタリングに適用させるため、ドローンによる空撮を行い得られた画像について解析を行いました(図(A))。その結果、空撮画像から得られた積雪表面の着色の程度は現地測定の結果とよく合致するだけでなく、積雪中の硫黄粒子量と強い関係性を示すことが分かりました(図(B))。

農業排水管理の違いが河川水の溶存有機炭素組成と生産性に与える影響

人間活動によって維持、管理されている自然環境を二次的自然とよびます。その一つである水田では、灌漑期に行われる排水が周辺河川の環境に大きな影響を与えていることが知られています。そのため、周辺環境の保全を含めた持続可能な水田管理を考えるうえで排水による影響評価は必要不可欠となっています。私たちの研究室では富山県内にある農業用の小河川を対象に水田排水管理の違いが河川水中の栄養塩や溶存有機成分の化学的特性に与える影響を評価し、研究成果として報告をしています。

採水の様子
河川の流速を測定している様子
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