教員と研究テーマ

中町 智哉 講師

神経ペプチドによる脳機能の制御メカニズムの解明

さまざまな行動を中心とした脳の制御メカニズムの解明を目指した研究を小型魚類を用いて行なっています。

 中町研究室では,「脳による行動制御メカニズムの解明」を研究目標として,主に小型魚類であるゼブラフィッシュを用いて、様々な行動試験を実施しています。特に、神経細胞が合成している神経伝達物質の1つである下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)に焦点を当てて、PACAP投与試験、遺伝子編集技術によるPACAP遺伝子欠損ゼブラフィッシュの作出などにより、PACAPによる行動の制御メカニズムの解明を目指した研究を進めています。さらに、独自の技術でゼブラフィッシュの脳梗塞モデルを作出し、ゼブラフィッシュを用いてヒトの脳梗塞治療薬のスクリーニングができないか試みる研究を展開しています。

ゼブラフィッシュを用いたPACAPの機能解析

 神経細胞が合成する神経伝達物質の1つであるPACAPはヒツジの視床下部から1989年に発見されました。PACAPは哺乳類において、摂食行動や記憶・学習行動、不安行動などさまざまな行動の制御に関わることが報告されています。しかし、PACAPによる行動の制御機構についてはまだまだわからないことが多く残っています。

 魚類を含む脊椎動物でもPACAP遺伝子およびPACAP受容体であるPAC1-R遺伝子が存在しており、それらのアミノ酸配列はとてもよく保存されています。興味深いことに、真骨魚類(一般的な魚類)では、PACAP遺伝子とPAC1-R遺伝子が遺伝子重複により2遺伝子ずつ存在しています。しかし、この2つのPACAPおよびPAC1-Rの違いについての研究はほとんど進んでいません。そこで中町研究室では2つのPACAPおよびPAC1-Rの違いを明らかにすることにより、魚類の脳をモデルとした行動の制御機構を解明することを目指しています。実験動物としては、ゲノム配列が解読済みであり、遺伝子編集の実績が豊富なゼブラフィッシュという小型の熱帯魚を用いて、組織分布の観察や行動試験、ゲノム編集技術を持ちいた遺伝子欠損ゼブラフィッシュの作出、さらには病態モデルを用いた解析など幅広い研究を展開しています。

  • 不安行動

  • 記憶・学習行動

  • 社会的行動

ゼブラフィッシュの各種行動解析手法の確立

 PACAPは脳の広い範囲で発現しており、さまざまな行動の制御に関わることが明らかになりつつあります。これまでにマウスやラットなどのげっ歯類では、さまざまな行動の評価方法が確立されて広く用いられています。一方で、魚類では行動を客観的に評価する手法が開発されつつあるものの、未だに一般化されるまでには至っていません。そこで、中町研究室では、代表的な小型魚類であるゼブラフィッシュを用いて、げっ歯類などの行動評価系と魚類特有の行動特性を組み合わせてさまざまな行動評価系を構築し、PACAPがどのように行動を調節しているかを明らかにしています。これまでに、新規環境下やストレスを負荷した後に表れる不安行動評価系、餌・群れなど報酬または電気ショックなどの痛みを受ける場所を覚えさえる記憶・学習行動評価系、群れに接近する行動を評価する社会的行動評価系、餌であるブラインシュリンプを食べる数を評価する摂食行動評価系など、小型魚類ならではの評価系を構築し、客観的に各種行動を数値化することに成功しています。今後も新たな行動評価系を独自に作りながら、その行動制御のメカニズムの解明を目指します。

脳梗塞の誘導
脳梗塞領域(右の白色の領域)
ゼブラフィッシュの脳梗塞モデルの確立

 従来、ヒトの病気に対する薬の開発(創薬)には、げっ歯類を用いて薬の評価を行ってきました。しかし、げっ歯類の実験は費用か高いことや、動物倫理的な問題で傷害の残る実験が世界的に難しくなっています。そのため、哺乳類を代替する病態モデル動物が望まれています。

 中町研究室では,小型魚類であるゼブラフィッシュを用いて、光増感反応を利用した脳梗塞モデルの開発に成功しました。このモデルはげっ歯類の脳梗塞モデルと比較して簡便で低侵襲で作成することができ、コストが安いのが特徴です。このゼブラフィッシュの脳梗塞モデルを用いて、現在はヒトの脳梗塞治療薬の有効性が評価できるのか、また哺乳類と魚類の間で脳梗塞時における病態進行過程に違いがあるのかなど、分子病態解析を中心とした実験を進めています。将来的にはゼブラフィッシュを用いてヒトの脳梗塞治療薬のスクリーニング系を構築することを目指しています。

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