教員と研究テーマ

小型魚類における生得的行動(摂食行動・情動行動)を制御する神経ペプチドの機能の解明
私たちの研究室では小型魚類としてキンギョやゼブラフィッシュ、さらにはトラフグも用いて、これら魚類の生得的行動(摂食行動・情動行動)を司る神経基盤と神経ペプチドによるこれらの行動の制御機構について研究を行っています。

はじめに-研究の目的-
動物にとって,摂食行動,生殖行動および情動行動の制御は,個体の生存や種の保存上,きわめて重要です。これらの本能行動は,中枢・末梢神経系や神経内分泌系の相互作用によって複雑に制御されます。私たちは,モデル動物としてキンギョやゼブラフィッシュ,トラフグを用いて神経ペプチドによる摂食行動の脳制御機構を解明してきました。さらに,私たちは食欲を制御する神経ペプチドが,生殖行動や情動行動にも強い影響を及ぼすことを見出しました。特に,独自に開発した明暗実験水槽や迷路水槽を用いた嗜好テストと認知・記憶学習テストにより,キンギョの情動行動の定量化解析に成功し,神経ペプチドの精神生理学的作用を世界に先駆けて解明しつつあります。これらの実験を通して,神経ペプチドによる本能行動制御の全容解明を目指した研究に取り組んでいます。私たちの得た研究成果は,原著論文・総説や国際学会・シンポジウム・大学・企業等での講演等を通して,関連学界に大きなインパクトを与え続けています。

(共焦点レーザー顕微鏡による蛍光画像)
神経ペプチドによる生得的行動制御の神経基盤
動物にとって摂食行動は、生命維持と個体の諸活動を支えるエネルギー獲得のため、欠くことのできない最も重要な本能行動です。脊椎動物において、間脳の視床下部領域は体内外の情報を収集・統合して摂食調節に重要な役割を演ずる中枢として機能すると考えられています。ラットやマウスにおける最近の研究成果によれば、摂食行動は、視床下部を中心とした脳各領域に発現・分布する多数の神経ペプチドおよびモノアミン・カテコラミン作動性ニューロン群の協調あるいは拮抗作用によって促進的あるいは抑制的に制御されていることが判明してきました。例えば、空腹時には、オレキシン、グレリン、神経ペプチドYおよびメラニン凝集ホルモンなどの摂食亢進性の神経ペプチド作動性ニューロン群が興奮して摂食行動を誘発します。一方、満腹時には、コルチコトロピン放出ホルモン、a-黒色素胞刺激ホルモン、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドおよび血管作動性腸ポリペプチドなどの摂食を抑制する神経ペプチド作動性ニューロン群によって、摂食を抑制します。また、これらの神経ペプチド作動性ニューロン群は相互作用しながら、摂食行動を制御・最適化することも判ってきました。さらには摂食行動を調節する神経ペプチドは生殖行動や情動行動にも深く影響を与える可能性が、最近、指摘され始めました。ラットやマウスなどのげっ歯類や他の哺乳類において摂食は、このように多数の神経ペプチドの中枢作用により調節されると考えられています。しかしながら、摂食行動の複雑な調節を司る脳神経機構の進化の過程における変遷については、全く判っていません。そこで、我々の研究グループは魚類の摂食制御機構の解明を目指し、諸々の生理学的知見の蓄積がありモデル動物として多用されているキンギョ(Carassius auratus)を使って神経ペプチドによる摂食行動の脳制御機構の解析を進めています。