教員と研究テーマ

唐原 一郎 教授

植物は宇宙を目指す

植物組織の形態形成の仕組みとその環境応答について、各種顕微鏡を用いた形態学的手法により研究しています。

ヒメツリガネゴケ宇宙実験((株)DigitalBlast提供)

 唐原研究室の研究テーマは大きくは「環境要因が植物の形作りと生理機能に与える影響の解明」です.その環境要因として具体的には,宇宙などの地球上と異なる重力環境が地上部の支持組織の発達に与える影響や,塩分や乾燥などの土壌中の環境ストレスが根の組織発達に与える影響を,手法として,電子顕微鏡を用いた微細構造解析や,X線を用いたコンピュータートモグラフィーなど三次元での形態解析により,研究してきました.現在は,それらの経験を活かし,宇宙環境での植物栽培である宇宙農業の実現を目指す研究にも取り組んでいます.

  • 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」
    (NASA提供)
  • 国際宇宙ステーション(NASA提供)
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SPring-8におけるX線CT撮影
X線コンピュータートモグラフィー(CT)による植物の根系や仮根系形態の3次元解析

 地球と異なる重力環境下で,植物の地下部の構造がどのようになるのかについては,不明でした.そこで宇宙ステーションでのSpace Seed実験で栽培し,ロックウール培地の中で成長したシロイヌナズナの根系や,Space Moss実験で栽培し,寒天培地中で成長したヒメツリガネゴケの仮根系の3次元構造について,兵庫県大・山内准教授と共同で,SPring-8のビームラインを用いて,様々な植物の器官・組織構造の非侵襲解析を行っています.三次元構築したデジタルデータにおいて,膨大な数の仮根を自動的に識別し解析するために,機械学習を用いて取り組んでいます.

 地球周回低軌道では,今後は民間企業のインフラを用いた宇宙実験が可能となってきます.今後のプロジェクトとして,環境科学科の蒲池准教授と,(株)DigitalBlast,九州大・久米教授と共同で,ヒメツリガネゴケを1/6Gの低重力環境で栽培すべく,それを実現できる新たに開発中の装置の試験検証に取り組んでいます.

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地球上と異なる重力環境下での植物栽培
地球上と異なる重力環境下での植物栽培

 地球上と異なる重力環境を実現するには,宇宙ステーションでの実験が理想的ですが,その機会は限られます.実験室で行う工夫として,三次元的に回転させる疑似微小重力環境を実現できる,クリノスタットは広く用いられており,当研究室でもこれを用いた実験を行っています.また,遠心力を用いることで過重力環境下で長期間植物を栽培することができる過重力栽培装置の特許を共同研究者(九州大・久米篤教授)とともに取得し,黒部市の製作所((株)松倉)と共に装置開発・検証してきました.

 これを用いて,重力が植物の支持組織の発達を制御する仕組みを明らかにし,宇宙実験の予備実験を行ってきました.最近は,薬学部植物園,和漢薬研究所と共同で,宇宙基地での薬用植物栽培を目指し,重力が薬用植物の栽培に与える影響を調べるユニークな実験も行っています.

研究紹介動画

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