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ガロア理論について

【数学科】2021年1月

最初は筆者の研究を紹介しようとしたが,非専門家向けに数学的な概念を説明するのは困難である事に気が付いた.代わりに第1,2節では代数学のみならず現代の数学の源になった言っても過言ではないガロア理論についての解説を行い,第3節で,筆者の研究について述べる.この論説に出てくる数学の用語の多くは,今では,ウィキペディアに載っているので,そこも読んでみられる事を勧めます.

1.3次方程式および4次方程式について

この節の内容は,[4]の第3章を参考にした.
$\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$を,それぞれ,有理数,実数,複素数のなす集合とする.$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ である. $n$を自然数とし,$a_i\in\mathbb{C}$ $(0\leqq i\leqq n-1)$とする.

$\displaystyle x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0=0$

を$n$ 次方程式という.$n$ 次方程式の解が存在する事は,代数学の基本定理として証明されている.2次方程式の解法は古来より知られていた.3次方程式,4次方程式の解法は16世紀に発見された.18世紀に5次以上の方程式の $\sqrt{\,\,\,\,}$, $\sqrt[3]{\,\,\,\,}$, $\sqrt[4]{\,\,\,\,}$,…などを用いた解の公式を得る事が不可能である事が,アーベルによって証明され,19世紀にガロアによってガロア理論による再証明がされた.これらの研究によって,代数学の基本的な概念である,群・環・体が導入されるきっかけとなり現代の数学全般において深く研究・応用がなされている.

この節では,2,3,4次方程式の解の公式を記述する.通常は, $\sqrt{\,\,\,\,}$, $\sqrt[3]{\,\,\,\,}$ などで記述されているが,それらを避けた記述を行う.

2次方程式の解の公式: $a$, $b\in\mathbb{C}$ とする. $\eta\in\mathbb{C}$ を, $\eta^2=a^2-4b$ となるものとする.

このとき,

$\displaystyle x^2+ax+b= \left(x-{\frac {-a+\eta} 2} \right) \left(x-{\frac {-a-\eta} 2} \right)$

が成り立つ. 即ち, $\displaystyle x={\frac {-a\pm\eta} 2}$ が,2次方程式 $x^2+ax+b-0$ の解である.

3次方程式の解の公式: $a$, $b$, $c\in\mathbb{C}$ とする. $\displaystyle {\frac {-1+\sqrt{-3}} 2}\in\mathbb{C}$ とする. $\omega^2+\omega+1=0$ および $\omega^3=1$ である. $A=-2a^3+9ab-27c$ とおき, $B=a^2-3b$ とおく. $\eta\in\mathbb{C}$ を, $\eta^2=A^2-4B^3$ となるものとする. ただし, $B=0$ ならば $\eta=A$ とする. $\theta\in\mathbb{C}$ を, $\theta^3={\frac {A+\eta} 2}$ となるものとする. $(A-\eta)\theta^3=2B^3$ が成り立つ. $B\ne 0$ のとき $\delta={\frac B \theta}$ とおき, $B=0$ のとき $\delta=0$ とおく.

このとき,

$\displaystyle x^3+ax^2+bx+c= \left(x-{\frac {-a+\theta+\delta} 3} \right) \left(x-{\frac {-a+\omega\theta+\omega^2\delta} 3}\right) \left(x-{\frac {-a+\omega^2\theta+\omega\delta} 3}\right)$

が成り立つ.

4次方程式の解の公式: $a$, $b$, $c$, $d\in\mathbb{C}$ とする.
$\displaystyle A={\frac {-3a^2+8 b} 8}$, $\displaystyle B={\frac {a^3-4ab+8 c} 8}$, $\displaystyle C={\frac {-3a^4+16 a^2b-64 ac+256c} {256}}$ とおく.
$x^4+a x^3+bx^2+cx+d=x^4+Ax^2+Bx+C$ である.
$\tau_1$, $\tau_2$, $\tau_3\in\mathbb{C}$ を, $x^3+(-A)x^2+(-4C)x+4AC-B^2=(x-\tau_1)(x-\tau_2)(x-\tau_3)$ を満たすものとする.
$\eta_1$, $\eta_2\in\mathbb{C}$ を,それぞれ $\displaystyle \eta_1^2=-\tau_1-\tau_2$, $\displaystyle \eta_2^2=-\tau_1-\tau_3$ を満たすものとする.
$\displaystyle (-\tau_2-\tau_3)\eta_1^2\eta_2^2=B^2$ が成り立つ.
$B\ne 0$ のとき, $\displaystyle \theta=-{\frac b {\eta_1\eta_2}}$ とおく.
$B=0$ のとき, $\theta\in\mathbb{C}$ を, $\theta^2=-\tau_2-\tau_3$ を満たすものとする.このとき,

$\displaystyle x^4+ax^3+bx^2+cx +d= \left(x-{\frac {-a+2(\theta+\eta_1+\eta_2)} 4} \right) \left(x-{\frac {-a+2(\theta-\eta_1-\eta_2)} 4} \right)$
$\displaystyle \cdot \left(x-{\frac {-a+2(-\theta+\eta_1-\eta_2)} 4} \right) \left(x-{\frac {-a+2(-\theta-\eta_1+\eta_2)} 4} \right)$
が成り立つ.

2.ガロア理論について

定義1:空集合ではない $\mathbb{C}$ の部分集合 $A$ が $\mathbb{Q}$ 上の有限拡大体であるとは,次の(1),(2),(3) を満たすときにいう.

  1. $0\in A$ および $1\in A$ である.
  2. $u$, $v\in A$ ならば, $u+v\in A$,$u-v\in A$ および $uv\in A$ が成り立つ.
  3. ある有限個の $A$ の要素 $x_1,\ldots,x_n\in A$ で,
    $\displaystyle A=\{k_1x_1+k_2x_2+\cdots +k_nx_n\in\mathbb{C}|k_1,k_2,\ldots,k_n\in\mathbb{Q}\}$
    となるものがある.

補題1: $A$ を $\mathbb{Q}$ 上の有限次拡大体とする.このとき, 次の(1),(2)が成り立つ.

  • (1) $u\in A$ が $u\ne 0$ を満たすものであれば $u^{-1}\in A$ が成り立つ.
  • (2) ある有限個の $A$ の要素 $z_1,\ldots,z_m\in A$ で,次の(2a),(2b)を満たすものが存在する.
  • (2a) $A=\{r_1z_1+r_2z_2+\cdots +r_mz_m\in\mathbb{C}|r_1,r_2,\ldots,r_m\in\mathbb{Q}\}$ である.
  • (2b) $p_1,p_2,\ldots,p_m, q_1,q_2,\ldots,q_m\in\mathbb{Q}$ とする. $p_1z_1+p_2z_2+\cdots +p_mz_m=q_1z_1+q_2z_2+\cdots +q_mz_m$ が成り立つ必要十分条件は, $p_1=q_1$,$p_2=q_2$,$\ldots$,$p_m=q_m$ が成り立つ事である.

証明について: (1),(2)共に大学の1・2年生で習う線形代数学より容易に 証明する事ができる.

(1)については,定義1の(3)より, ある有限個の $t_0\ne 0$ を満たす $t_0,\ldots,t_h\in\mathbb{Q}$ で,
$\displaystyle u^{h+1}+t_hu^h+\cdots+t_1u+t_0=0$ となるもが存在する事を示す事が出来る.
これより,$\displaystyle u^{-1}=-t_0^{-1}(u^h+t_hu^{h-1}+\cdots+t_1)\in A$ である.

(2)については, $\{z_1,z_2,\ldots,z_m\}$ は,基底と呼ばれるものであって 線形代数学のみならず,数学全般にわたって基礎となる概念の一つである. $m$ を $A$ の次元という.

$\Box$

定義2: $A$ を $\mathbb{Q}$ 上の有限次拡大体とする.
$A$ が $\mathbb{Q}$ 上の有限次ガロア拡大体であるとは,ある有理数係数の多項式 $f(x)=x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0$ ($n\geqq 1$,$a_0,a_1,\ldots,a_n\in\mathbb{Q}$, $a_0\ne 0$)あって, $\alpha_1,\ldots,\alpha_n$ が, $f(x)=0$ の解であるとき, 即ち, $f(x)=(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots (x-\alpha_n)$ となっているときに, \begin{equation*} A=\left\{\sum_{i_1,i_2,\ldots,i_n=0}^{n-1}b_{i_1,i_2,\ldots,i_n}\alpha_1^{i_1}\alpha_2^{i_2}\cdots\alpha_n^{i_n}\Bigg| b_{i_1,i_2,\ldots,i_n}\in\mathbb{Q}\right\} \end{equation*}となっているときにいう.

定義3: $A$ を $\mathbb{Q}$ 上の有限次ガロア拡大体とする. $\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ を,次の(1),(2),(3)を満たす $A$ の要素を代入して,値が $A$ の要素である 関数 $\sigma(x)$ $(\alpha\in A \to \sigma(\alpha)\in A)$ を要素とする集合とする.

(1)$\sigma(0)=0$ および$\sigma(1)=1$ が成り立つ.

(2)任意の$\alpha$,$\beta\in A$ に対して, $\sigma(\alpha+\beta)=\sigma(\alpha)+\sigma(\beta)$, $\sigma(\alpha-\beta)=\sigma(\alpha)-\sigma(\beta)$ および $\sigma(\alpha\beta)=\sigma(\alpha)\sigma(\beta)$ が成り立つ.

(2)任意の$\alpha\in A$ と $\beta\ne 0$ となる任意の$\beta\in A$ に対して, $\sigma(\alpha\beta^{-1})=\sigma(\alpha)\sigma(\beta)^{-1}$が成り立つ.

$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ を,$\mathbb{Q}$ 上のガロア群という. $\sigma(x)$と$\tau(x)$が$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$の要素ならば合成写像$\sigma\tau(x)$ $(\alpha\to\sigma(\tau(\alpha)))$ も$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$の要素である. $\sigma(x)$が$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$の要素ならば逆写像$\sigma^{-1}(x)$ $(\sigma(\alpha)\to\alpha)$ も $\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$の要素である.

定理($\mathbb{Q}$上の有限次ガロア拡大体のガロアの基本定理): $A$を$\mathbb{Q}$上の有限次ガロア拡大体とする. ${\mathcal{F}}$を$\mathbb{Q}$上の有限次拡大体で$A$の部分集合となっているものを 要素とする集合とする.${\mathcal{S}}$ を $\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ の部分集合 $H$ で, $\sigma(x)\in H$ ならば $\sigma^{-1}(x)\in H$ を満たし, $\sigma(x),\tau(x)\in H$ ならば$\sigma\tau(x)\in H$ を満たすものを要素とする集合とする. このとき,${\mathcal{S}}$ の要素を代入して,値が${\mathcal{F}}$ の要素である 関数$\Phi(x)$ $(H\in{\mathcal{S}} \to \Phi(H)=\{\alpha\in A|\sigma(\alpha)=\alpha\,(\sigma\in H)\}\in {\mathcal{F}})$ を, 定義することが出来る.逆関数$\Phi^{-1}(x)$ $(B\in{\mathcal{F}} \to \Phi^{-1}(B)=\{\sigma\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})|\sigma(\beta)=\beta\,(\beta\in B)\}\in {\mathcal{S}})$ も, 定義することが出来る. $H\in {\mathcal{S}}$ に対して,$H$ の要素の数と $\Phi(H)$ の次元の積は,$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ の要素の個数に等しい. また,$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ の要素の個数は,$A$ の次元に等しい.

定義4: $n$ を自然数とする. $I=\{1,2,\ldots,n\}$ とする. $S_n$を$I$ の要素を代入して,$I$ の要素を値とする関数$s(x)$ $(i\in I\to s(i)\in I)$ で,逆関数$s^{-1}(x)$ が定義できるものを要素とする集合とする. $s\in S_n$ ならば$s^{-1}\in S_n$ が成り立つ. $s,t\in S_n$ ならば$st\in S_n$ が成り立つ. (ここで,$st(i)=s(t(i))$ $(i\in I)$ である.)

補題2: $\displaystyle f(x)=x^m+a_{m-1}x^{m-1}+\cdots+a_1x+a_0$ ($n\geqq 1$,$a_0,a_1,\ldots,a_m\in\mathbb{Q}$, $a_0\ne 0$)および $\displaystyle g(x)=x^n+b_{n-1}x^{n-1}+\cdots+b_1x+b_0$ ($\displaystyle n\geqq 1$,$\displaystyle b_0,b_1,\ldots,b_n\in\mathbb{Q}$, $\displaystyle b_0\ne 0$)を2つの 有理数係数の多項式とする. $\displaystyle \alpha_1,\ldots,\alpha_m$ を$f(x)=0$ の解とする. $\displaystyle \beta_1,\ldots,\beta_n$ を$g(x)=0$ の解とする. $A$ を$\mathbb{Q}$ 上の有限次ガロア拡大体とし, $\displaystyle \{\alpha_1^u\beta_1^v|0\leqq u\leqq m-1,0\leqq v\leqq n-1\}$ が, $A$ の基底であると仮定する. このとき,$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ の要素を代入して $S_{m+n}$ の要素に値をとる関数$\Theta(x)$ を, $\sigma\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ に対して,$\sigma(\alpha_i)=\alpha_j$, $\sigma(\beta_k)=\beta_r$ のとき, $\Theta(\sigma)(i)=j$,$\Theta(\sigma)(k+m)=r+m$ とすることにより定義することが出来る. さらに,次の,(1)〜(3)が成り立つ.

(1)$\displaystyle \sigma\ne\tau\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ ならば,$\displaystyle \Theta(\sigma)\ne\Theta(\tau)$ が成り立つ.

(2)任意の$\displaystyle 1\leqq j\leqq m$,$\displaystyle 1\leqq r\leqq n$ に対して, $\displaystyle \Theta(\sigma)(1)=j$,$\displaystyle \Theta(\sigma)(1+m)=r+m$ を満たす$\displaystyle \sigma\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ が存在する.

(3)$\displaystyle \sigma\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ ならば$\displaystyle \sigma^{-1}\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ が成り立ち, $\displaystyle \sigma,\tau\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ ならば$\displaystyle \sigma\tau\in\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ が成り立つ.

例:$A$ を, $\displaystyle \{1,\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4},\sqrt{-3}, \sqrt[3]{2}\sqrt{-3}, \sqrt[3]{4}\sqrt{-3}\}$ を基底とする$\mathbb{Q}$ 上の6次元有限次拡大体とする.$\displaystyle \omega={\frac {-1+\sqrt{-3}} 2}$ とおく. $\displaystyle x^3-2=(x-\sqrt[3]{2})(x-\omega\sqrt[3]{2})(x-\omega^2\sqrt[3]{2})$, $\displaystyle x^2+x+1=(x-\omega)(x-\omega^2)$ であり, $\displaystyle \{1,\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4},\omega, \sqrt[3]{2}\omega, \sqrt[3]{4}\omega\}$も, $A$の基底である事により,$A$は$\mathbb{Q}$上の有限次ガロア拡大である.

補題2より,$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ は6個の要素からなる集合 $\{\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\sigma_4,\sigma_5,\sigma_6\}$ である. ここで,$\sigma_h$ $(1\leqq h\leqq 6)$ は,$s_h=\Theta(\sigma_h)\in S_5$ とおくことにより, つぎの表($\displaystyle s_h \backslash i\to s_h(i)$)により,定義される.

$$ \renewcommand{\arraystretch}{1.5} \begin{array}{c|ccccc} s_h \backslash i & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ \hline s_1 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ s_2 & 1 & 3 & 2 & 5 & 4 \\ s_3 & 2 & 3 & 1 & 4 & 5 \\ s_4 & 2 & 1 & 3 & 5 & 4 \\ s_5 & 3 & 1 & 2 & 4 & 5 \\ s_6 & 3 & 2 & 1 & 5 & 4 \end{array} $$

$\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ の乗積表$(\sigma \backslash \tau\to \sigma\tau)$ はつぎの通りである.

$$ \renewcommand{\arraystretch}{1.5} \begin{array}{c|cccccc} \sigma \backslash \tau & \sigma_1 & \sigma_2 & \sigma_3 & \sigma_4 & \sigma_5 & \sigma_5 \\ \hline \sigma_1 & \sigma_1 & \sigma_2 & \sigma_3 & \sigma_4 & \sigma_5 & \sigma_6 \\ \sigma_2 & \sigma_2 & \sigma_1 & \sigma_6 & \sigma_5 & \sigma_4 & \sigma_3 \\ \sigma_3 & \sigma_3 & \sigma_4 & \sigma_5 & \sigma_6 & \sigma_1 & \sigma_2 \\ \sigma_4 & \sigma_4 & \sigma_3 & \sigma_2 & \sigma_1 & \sigma_6 & \sigma_5 \\ \sigma_5 & \sigma_5 & \sigma_6 & \sigma_1 & \sigma_2 & \sigma_3 & \sigma_4 \\ \sigma_6 & \sigma_6 & \sigma_5 & \sigma_4 & \sigma_3 & \sigma_2 & \sigma_1 \end{array} $$

この事より, ${\mathcal{S}}$ は,6個の要素からなる集合 $\{H_1,H_2,H_3,H_4,H_5,H_6\}$ である.ここで, $\displaystyle H_1=\{\sigma_1\}$, $\displaystyle H_2=\{\sigma_1,\sigma_2\}$, $\displaystyle H_3=\{\sigma_1,\sigma_4\}$, $\displaystyle H_4=\{\sigma_1,\sigma_6\}$, $\displaystyle H_5=\{\sigma_1,\sigma_3,\sigma_5\}$, $\displaystyle H_6=\mbox{Gal}(A/\mathbb{Q})$ である. $\displaystyle \Psi(H_1)=A$ および$\Psi(H_6)=\mathbb{Q}$ である. $\displaystyle \Psi(H_2)$,$\Psi(H_3)$,$\Psi(H_4)$,$\Psi(H_5)$ の次元は,それぞれ,$3$, $3$, $3$, $2$ であり, 基底は, $\displaystyle \{1,\sqrt[3]{2}, \sqrt[3]{4}\}$, $\displaystyle \{1,\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{2}\omega, \sqrt[3]{4}\omega\}$, $\displaystyle \{1,\sqrt[3]{2}\omega, \sqrt[3]{4}+\sqrt[3]{4}\omega\}$, $\displaystyle \{1,\sqrt{-3}\}$である.

3.ヤコビ3重積公式について

群に自然な幾何学的な構造をあわせ持ったものをリー群という. リー群の構造の多くは微小なところで決まり,微小な部分を公理化した概念を リー環という.リー環のなかで複素単純リー環と呼ばれるクラスがある. 複素単純リー環の重要な公式としてワイルの指標公式がある。 ワイルの指標公式の応用として次の事柄の再証明を得る.

$a_1,a_2,\ldots,a_n\in\mathbb{R}$とする.$n$次元空間 (2次元空間は平面であり,3次元空間は空間である.)の中にある 平行$2n$面体 $\displaystyle P=\left\{\sum_{i=1}^nt_i(1,a_i,a_i^2,\ldots,a_i^{n-1})|0\leqq t_i\leqq 1 (1\leqq i\leqq n)\right\}$の$n$次元体積は $|(a_1-a_2)(a_1-a_3)\cdots(a_i-a_j)\cdots(a_{n-1}-a_n)|$ (ファンデルモンドの行列式の絶対値)である.

複素単純リー環を無限次元化したものがアファインリー環である. アファインリー環にもワイル・カッツの指標公式と呼ばれるワイルの指標公式と同じような公式がある. ワイル・カッツの指標公式の応用として ヤコビの3重積公式(19世紀にヤコビが紹介した.)と呼ばれる次の等式の再証明を得る.

$\displaystyle 1-q\left(z+{\frac 1 z}\right)+q^4\left(z^2+{\frac 1 {z^2}}\right)-q^9\left(z^3+{\frac 1 {z^3}}\right)+\cdots$
  $\displaystyle =\left(1-q^2\right)\left(1-qz\right)\left(1-{\frac q z}\right)\left(1-q^4\right)\left(1-q^3z\right)\left(1-{\frac {q^3} z}\right) \left(1-q^6\right)\left(1-q^5z\right)\left(1-{\frac {q^5} z}\right)\cdots$

筆者は論文[3]で,一般化された量子群の典型的ワイル・カッツの指標公式を証明した. その応用として,次の等式を得る.

$(y^2-a^2)(x^8y^4-b^2)$ $+x(y^3-a^2)(x^6y^3-b^2)$ $+xy(y-a^2)(x^6y^3-b^2)$
$+x^2(y^4-a^2)(x^4y^2-b^2)$ $+x^2y(y^2-a^2)(x^4y^2-b^2)$ $+x^2y^2(1-a^2)(x^4y^2-b^2)$
$+x^3y(y^3-a^2)(x^2y-b^2)$ $+x^3y^2(y^3-a^2)(x^2y-b^2)$ $+x^4y^2(y^3-a^2)(1-b^2)$
$=(y-a)(y+a)(x^2y-b)(x^2y+b)(x^2+x+1)(x^2y^2+xy+1)$

環のある重要なクラスにホップ代数がある. 量子群は,1980年代に,ドリンフェルドと神保によりほぼ同時期に導入されたホップ代数である. 量子群に属する重要な要素として普遍R行列というものがある.普遍R行列は, 20世紀に発見された数学の概念のなかで最も重要なもののひとつである. 筆者が,一般化された量子群を研究し始めたきっかけは,学位論文で複素単純ス―パーリー環の 量子群の普遍R行列をドリンフェルドの構成法により実際に構成したことから始まる.そのときに, 複素単純ス―パーリー環を定義する等式も発見した.その数年後, アファィンス―パーリー環を定義する等式も発見した.それは大変複雑なのものであり, その中でも特に複雑なのものは$G^{(1)}(3)$と呼ばれるアファィンス―パーリー環を定義する等式の一つで, それは,

$\displaystyle [[[[[[[[[[[[[[E_i,E_j],E_k],E_l],E_k],E_j],E_k],E_l],E_k],E_j],E_k],E_l],E_k],E_j],E_k]=0$
である(ここで,$[X,Y]=XY\pm YX$であり,$\pm$は,$X$と$Y$のパリティ―と呼ばれるものよって決まる.). 一般化された量子群は,複素単純ス―パーリー環の 量子群を含む概念であり,研究するうちに,ワイル亜群と呼ばれる亜群が重要な役割を果たす事を実感した. 亜群は群を拡張した概念であり,複数の単位元を持っている. ワイル亜群は,スーパーリー環およびホップ代数の研究者達により,有用性が知られていた. 2008年に筆者は,ワイル亜群の松本の定理を証明した共著論文[2]を発表した.その論文は,一般化された量子群の研究者達の研究に大いに寄与し,最近出版された学術書[1]の第9章に詳しい解説がある. 筆者の見果てぬ夢は,一般化されたアファイン量子群を研究し,ヤコビの3重積公式のような等式を見つけることであるが,30年かけて,やっと登山口が見てきたのかな〜というところである。

参考文献

  1. István Heckenberger and Hans-Jürgen Schneider, Hopf Algebras and Root Systems, Mathematical Surveys and Monographs Volume: 247 (2020) Americam Mathematical Society, Print ISBN: 978-1-4704-5232-2
  2. István Heckenberger and Hiroyuki Yamane, A generalization of Coxeter groups, root systems, and Matsumoto's theorem. Math. Z., 259 (2008), no. 2, 255-276.
  3. Hiroyuki Yamane, Typical irreducible characters of generalized quantum groups, Published: 30 October 2020 (Online), J. Algebra Appl., https://doi.org/10.1142/S0219498821400144
  4. 雪江明彦,代数学I 群論入門,日本評論社 2010年

(数学科 山根 宏之)