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火山ガス成分の変化が明らかにする噴火のメカニズム

【生物圏環境科学科】2020年11月

  日本には多くの火山が存在し、温泉・地熱や金属・ガス・水資源など私たちの生活に様々な恩恵をもたらしてくれています。しかし、その一方で噴火によって甚大な被害が発生することもあります。私たちが火山と共存していくためには、その活動の推移を調査することが重要です。そうすることにより噴火メカニズムの解明を促進し、噴火の可能性や規模を評価して被害を軽減するために有用な情報が得られるからです。高温の火山ガスにはマグマから脱ガスした成分が含まれています。そのため火山ガスの成分を調べることによって、物質の供給源であるマグマ・熱水系の状態や、それと密接に関わっている火山活動の推移に関する情報を得ることができます。特に希ガスや窒素などの同位体組成は火山ガスに含まれるマグマ成分の増減を敏感に反映することが知られており、噴火に関わるような火山活動の変化を検出するために有用なトレーサとなります。たとえば、2015年6月に水蒸気噴火が発生した箱根山大涌谷の噴気の成分が分析され、そのデータに基づき噴火前後に山体内部で発生した現象が解明されました。

箱根山の火山ガス成分と活動の変化

  まず、大涌谷の噴気に含まれるヘリウム-ネオンと窒素―アルゴンの同位体組成から、噴気は「箱根火山ガス源」の成分と大気が混合したものであることが分かりました。そして、噴気に大気由来成分がどの程度混入しているかを計算し、補正を行うことで箱根火山ガス源の組成が推定されました。大気成分を補正した箱根火山ガス源の3He/4He比, δ15N値(注1)の時間変化は図1のようになりました。

  山体内部の熱水系に存在する箱根火山ガス源成分は、図2のようにマグマと地殻の成分が混合したものであると考えられます。2015年6月の噴火前後では、大気成分を補正した3He/4He比の上昇とδ15N値の下降が見られました。これは大涌谷噴気と箱根火山ガス源に含まれるマグマ成分の増大を示唆しており、マグマからの脱ガスの活発化に伴う熱水系状態の変化および火山活動の活発化を反映しています。噴火後1-2か月程度経過すると、大気成分を補正した3He/4He比は緩やかな下降に、δ15N値は上昇に転じており、これらは火山活動の静穏化を示唆しています。化学データと地震の発生回数(図1)などを比較することによって、噴火前後の箱根山では以下のような時系列で火山現象が発生したことが分かりました。

  1. マグマの充填により山体が膨張
  2. 山体内の間隙圧の上昇に伴い地震活動が増大
  3. 水蒸気噴火発生
  4. 揮発性物質が熱水・ガスの移動に伴い放出され、ヘリウムと窒素の同位体比異常が最大化

  この研究では水蒸気噴火に伴う化学・物理データの変動が観測され、噴火現象のメカニズムが明らかになりました。このような火山の地球化学的研究は、様々な火山熱水系の活動度や、噴火可能性など災害ポテンシャルの評価において有用な化学トレーサの活用方法とモデルを提唱するものであり、世界各地の火山研究において重要です。

参考文献

Kagoshima, T., Sano, Y., Takahata, N., Lee, H., Lan, T. and Ohba, T. (2019) Secular variations of helium and nitrogen isotopes related to the 2015 volcanic unrest of Mt. Hakone, central Japan. Geochemistry, Geophysics, Geosystems 20, 4710-4722.

用語解説

(注1) δ15N値
   大気の窒素同位体比に対する、試料の窒素同位体比の異常を千分率(‰)で表記したものがδ15N値であり、以下の式で計算されます。

        δ15N = [ (15N/14N)sam / (15N/14N)air – 1 ] × 1000 (‰)

(15N/14N)sam, (15N/14N)air はそれぞれ試料、大気の窒素同位体比を示します。


図1
図1. (a) 気象庁が報告した箱根山における地震発生回数. (b) 大涌谷に存在する2つの噴気A, Bにおける大気成分を補正した3He/4He比の時間変動: 矢印は噴火前後におけるヘリウム同位体比の上昇傾向を示します。緑色の帯は1976年以降に採取された大涌谷の温泉データの平均値であり、長期的にはヘリウム同位体比がほぼ一定であったことを示唆します。(c) 同噴気における大気成分を補正したδ15N値の時間変動: 矢印は噴火前後における窒素同位体比の下降傾向を示します。(a), (b), (c)を縦断する赤色の帯は噴火発生時期を示します。



図2
図2. 箱根山熱水系の模式図と火山現象の時系列


(生物圏環境科学科 鹿児島 渉悟)