1890年に, É.L.Mathieuは次の級数を導入した:
\[S(r):=\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{2n}{(n^2+r^2)^2},\quad r>0.\]
この級数は後にMathieu級数と名付けられた. 彼はこの級数に対して, \(S(r)<1/r^2,\ r>0\) という不等式が成り立つと予想したが, 証明することは出来なかった. その後, 1952年にこの不等式は証明され, 現在に至るまで \(S(r)\) に関する多くの不等式の研究がされている.
本講演では, \(r\to0+\) のとき \(S(r)\to2\zeta(3)\) となることに着目し, 次の形の不等式を考える:
\[S(r)<\dfrac{2\zeta(3)}{br^2+1},\quad r\in(0,\tfrac{1}{2}].\]
ここで, \(b\) は正の定数であり, \(\zeta(s):=\sum_{n=1}^{\infty}1/n^s,\ s>1\) はRiemannのゼータ函数である.
次が主結果である.
Theorem. \(b>0\) を定数とする. このとき, 不等式
\[S(r)<\dfrac{2\zeta(3)}{br^2+1},\quad r\in(0,\tfrac{1}{2}]\]
が成り立つための必要十分条件は \(b\leq2\zeta(5)/\zeta(3)\) である.
従って, \(b\) の最良定数は \(2\zeta(5)/\zeta(3)=1.72525\cdots\) である.
本講演は, 藤田 安啓氏との共同研究に基づく.