地球の地殻・マントルは岩石からできています.身近にみられる岩石はただ硬いだけのものですが,大きな力が加われば破壊しますし,高温になれば十分に軟らかくなって流れます.固体地球のダイナミクスを支配しているのは,すべてこうした岩石の挙動なのです.わたしたちは,岩石の物性を通して,火山へのマグマの輸送や地震発生のメカニズムを明らかにすることを目指しています.
研究テーマ
1.マグマの発生・上昇
なぜ火山が噴火するか?この問いに対しては,“上部マントルの部分熔融で発生したマグマが,浮力によって上昇するから”と答えることができます.しかし,“ある火山が,いつ頃,どのぐらいの期間にわたって,どのような噴火するか?”という問いに対しては,わたしたちはまだまだ無力です.マグマの上昇メカニズムについての定量的な理解が不十分だからです.
わたしたちは,リソスフェア内でマグマを輸送するクラックについて実験,理論の両面から研究を進め,マグマの上昇がどのように地殻応力の影響を受けるか,ということを明らかにしてきました.現在取り組んでいるのは,アセノスフェアからリソスフェアへのマグマの供給です.どのようなタイミングでどれだけの量のマグマがリソスフェアに対して供給されるかが分かれば,それをもとにリソスフェアとマグマがどのように熱,物質のやりとりをするかが理解できるはずです.これにより,火山活動についての理解は一挙に進むものと考えています.
2.サイレント地震の原因物質としての蛇紋岩の物性
GPS観測網の整備により,海洋プレートの沈み込みの場では,通常の地震だけでなく,非常にゆっくりとした滑りである“サイレント地震”が起きていることがわかってきました.しかし,なぜこのようなゆっくりとした滑りが起きるのかは,まだわかっていません.巨大地震発生の場である沈み込み境界を理解するためには,このようなサイレント地震の原因を明らかにすることが重要です.
わたしたちは,サイレント地震の原因ではないかと考えられている,海洋プレートの
上側にある蛇紋岩の物性(とくに地震波速度)を研究しています.地震波速度から蛇紋岩のマッピングを行うこと,さらにその変形状態を読み取ることが目標です.
3.断層岩の物性
海洋プレートの沈み込みによって運び込まれた水は,深部で脱水反応によって分離し地表に向かって上昇します.この水は地殻内部で蓄積し,断層の強度を下げると考えられています.内陸部での大地震(1995年の兵庫県南部地震はその一例です)の多くは,このように水によってトリガーされている可能性があります.
わたしたちは,現在地表に露出している断層岩(地質時代の地震断層の化石)の物性(地震波速度,電気インピーダンス,浸透率など)を調べています.断層が水をどれだけ通しやすいのか,通しにくいのか,それは地震前とあとでどれだけ異なるのか,などを明らかにすることによって,内陸地震の発生メカニズムに迫れるものと考えています.