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トピックス
マグマ溜りの深さがカルデラ形成の鍵を握る(地球科学科)
一般に,カルデラは,地下のマグマ溜りの天井の一部,あるいは全部が陥没して形成される火山性の陥没地形として 知られています.実は,カルデラは,その成因により,陥没カルデラ,爆発カルデラ,侵食カルデラと分類されてい ます.今説明しました成因によるカルデラのことを陥没カルデラといいます.日本の多くのカルデラはこのタイプに なります. カルデラ形成のメカニズムの解明には,これまで実験的手法(例えば,膨らませた風船を砂箱の中に埋め,空気を抜く 際に砂がどのように崩れるかを観察する等)が多く採用され,その概略の理解は大きく進みました.しかし,定量的な 議論(数値や式を使った議論)にはなかなか進みませんでした.近年では,数値シミュレーションが盛んに行われるよ うになり,定量的な議論が可能になってきましたが,変化させる変数(マグマ溜りの深さや大きさ,形状,地殻の物性 等)が多いため,カルデラの大きさやマグマ溜りの体積変化量を決める本質的な変数は何かということが分かりづらい 状況になっていました.
図1.鹿児島湾奥部の姶良(あいら)カルデラの位置(赤線).
このような中,英国の女性研究者Geyerさんらが,それほど深くないマグマ溜りの体積減少は,マグマ溜りの天井の崩 壊が地表に達するよりも先に,地表面に環状断層(カルデラ形成の初期段階で地表に現れる円環状の断層群)を形成さ せるということを実験で示しました(Geyer et al., 2006).この結果を踏まえ,少し乱暴ですが,マグマ溜りの体積 変化によって生じる地表の応力を破壊則で評価し,環状断層が形成されるために必要とされるマグマ溜りの体積変化 量を与える解を求めてみました. その結果,環状断層形成に必要なマグマ溜りの体積変化量は,マグマ溜りの深さの3乗に比例することを示す解を得ま した.地殻の物性値も大事ですが,マグマ溜りの体積変化量は,その深さによって大きく左右されるというのです. また同時に,マグマ溜りの深さとカルデラの半径の間にも,直線に近い関係式が成り立つこと,カルデラ壁の傾斜角 からマグマ溜りの大きさが条件付で推定できることも分かりました.

得られた解を,姶良カルデラ(鹿児島県:図1)に適用した結果(マグマ溜りの深さ)を図2に示します.比較のため,図2 中には,過去に推定された姶良カルデラのマグマ溜りの深さも記しています.過去の推定値と大きく違わない結果で すね.ここで用いたデータは,カルデラの半径とカルデラ壁の傾斜角です. 一方,環状断層形成に必要とされるマグマ溜りの体積変化量は,地質学的証拠から推定された噴出量より一桁程度小 さく予測されました.これだけを比較すると,「使えない」解ということになりますが,大規模な陥没前(初期段階) のカルデラ形成に寄与したマグマ溜りの体積変化量と,大規模な陥没を経たカルデラで観測される噴出量を単純に比 較することは出来ません.そこでGeyerさんらの実験モデルに解を適用し,予想される体積変化比(マグマ溜りの体積 変化量/マグマ溜りの全体積)と実際の測定値を比較したところ.両者はよく一致していました (詳細は,Kusumoto and Gudmundsson (2009)に述べられています). 乱暴な近似で得られた解ですので,この解だけから得られる情報で詳細な議論を行うことは難しいかもしれません. しかし,カルデラ径とマグマ溜りの深さ,体積変化を議論する初期モデルとして有用な情報を与えていけるのではな いかと期待しています.
図2.これまでに推定されたマグマ溜りの深さ分布.A:入戸(いと)火砕流を用いた水熱実験より推定 (Aramaki, 1971). B:1914年の大正噴火の際の地殻変動から推定 (Mogi, 1958).C:1974年-1982年の地殻変動から推定 (江頭・中村, 1986).D: 1988年-1996年の地殻変動から推定 (江頭ほか, 1998).E: カルデラ半径とカルデラ壁の 傾斜角から推定 (Kusumoto and Gudmundsson, 2009).+:カルデラ半径から推定(Kusumoto and Gudmundsson, 2009). B, C, D, + はマグマ溜りの大きさを「点」と仮定している.

[文献]

Aramaki, S., Hydrothermal determination of temperature and water pressure on the magma of Aira caldera, Japan. Am. Mineral. 56, 1760-1768, 1971.

江頭庸夫・中村貞, 桜島火山周辺における地盤変動―1974〜1982年―, 第5回桜島火山の集中総合観測, 11-21, 1986.

江頭庸夫・高山鐵朗・山本圭吾・Muhamad Hendrasto・味喜大介・園田忠臣・木股文昭・宮島力雄・松島健・内田和也・ 八木原寛・王彦賓・小林和典, 桜島周辺における水準測量の結果について―1991年12月〜1996年10月―, 第9回桜島 火山の集中総合観測, 15-29, 1998.

Geyer, A., Folch, A., and J. Marti, Relationship between caldera collapse and magma chamber withdrawal: an experimental approach, J. Volcanol. Geotherm. Res., 157, 375-386, 2006.

Kusumoto, S. and A. Gudmundsson, Magma-chamber volume changes associated with ring-fault initiation using a finite-sphere model: application to the Aira caldera, Japan, Tectonophysics, 471, 58-66, 2009.

Mogi, K., Relations between eruptions of various volcanoes and the deformation of the ground surface around them. Bull. Earthquake Res. Inst. 36, 99-134, 1958.

(地球科学科 楠本成寿)
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Last modified 2009.09.30
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