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トピックス
熱帯低気圧と気候変動 (地球科学科)
熱帯低気圧、たとえば北西太平洋における台風、北西大西洋におけるハリケーン、インド洋におけるサイクローンは、 毎年各地に甚大な風水害をもたらしています。最近の熱帯低気圧の活動状況からこの分野の研究では、エルニーニョ南 方振動(ENSO)、数十年変動、地球温暖化といった気候変動との関連が研究テーマの一つとしてクローズアップされて います(Matsuura and Kawamura, 2007; Elsner and Jagger, 2008)。富山県においても、富山湾特有の現象「寄り回 り波」と同様に日本海を通過する台風に伴う高潮による浸水被害がしばしば発生しています(例えば、2004年10月)。 今回熱帯低気圧を作り出せる高解像度の大気海洋結合モデルによって得られた熱帯低気圧と気候変動の研究成果を紹介 します。


             図1:大気・海洋・陸域結合系の概念図                図2:シミュレーションにおける地球の格子化

大気海洋結合モデルは大気、陸域、海洋が一体としてモデル化されています(図1)。このモデルは力学過程と物理過程 で成り立っています。力学過程では大気や海洋の大規模な循環(ナービエ・ストークス方程式)、大気における気温や 水蒸気量(熱力学方程式、水蒸気量保存式)、海洋における水温や塩分濃度(熱力学方程式、塩分保存式)の分布を表 現しています。これらの大気や海洋の大規模な場は物理過程、つまり放射過程、積雪過程、土壌水分過程、河川流出過 程、海氷過程、大気境界層過程、海洋混合層過程等の変化に伴って空間的に時々刻々変わっていきます。このモデルは 物理法則に基づいて数式で表現され、膨大な計算能力をもったスーパーコンピュータを使って数値的に解かれます。具 体的に、連続した流体として表現されている大気や海洋の数式モデルを図2に示すような有限のサイコロ状のメッシュに 区切って、各ブロック内の大気や海洋の状態を一組の平均的な数値で代表させます。このメッシュの粗さがシミュレー ションの解像度であり、この解像度によって表現される現象も制限されます。ENSOや地球温暖化のシミュレーションで は250km程度の解像度が必要であり、熱帯低気圧を表現するためには100kmより細かいメッシュが必要となります。現在 は数十km程度の高解像度の大気海洋結合モデルの開発も進んでおり、今回紹介するシミュレーション結果はこの解像度 のもので、現在開発されている結合モデルの中で高解像度のものになります。


       図3:シミュレートされた熱帯低気圧                  図4:エルニーニョとラニーニャ期の熱帯低気圧分布

図3は0.56°(〜60km)解像度の大気モデルと0.56°×0.56°の海洋モデルを結合した高解像度大気海洋結合モデルの熱 帯低気圧発生時の様子を3次元的に可視化したものです。シミュレーションを初めて2年目の10月のパターンであり、太 陽放射を与えただけでモデルの中で熱帯低気圧が自律的に発生しています。海面の暖色が高温(28℃−26℃)の水温を、 寒色が低温を示しています。矢羽根が15m/s以上の風を示しており日本の上空には偏西風が吹いています。フィリピン東 岸に風ベクトルによって筒状に表現されたものが熱帯低気圧です。このモデルで再現されている熱帯低気圧の構造は観 測されている構造とよく一致しています。つぎに、熱帯低気圧とENSOの関係のシミュレーション結果を示します。発生 位置に関してエルニーニョ期には熱帯低気圧発生域である北西熱帯太平洋の南東域(5°−17°N, 150°E−180°;第4象 限)の発生数が極端に増え、ラニーニャ期には、フィリピンの東側の暖水域(17°−30°N, 120°−150°E;第2象限) での発生数が増えます(図4参照)。また、熱帯低気圧発生期(7月−10月)においてはエルニーニョ期の方が他の期間 に比べて日本の方まで迂回するものが多いこと、特に、9−10月の秋季においてエルニーニョ期に迂回し日本列島の南岸 を通過するものが多く、ラニーニャ期は発生域から北西に進行しインドシナ半島や中国南部に上陸する熱帯低気圧が多 いということがわかりました(図5参照)。さらに、熱帯低気圧の平均強度に関してはエルニーニョ期にラニーニャ期よ り強まる傾向があるとともに、その勢力を維持したまま日本付近に襲来する傾向があり、実際、エルニーニョ期の方が 日本における台風被害が大きいことが統計的に認識されています。特に、将来地球温暖化した時、台風活動がどのよう になるのか関心の的ですが、数値シミュレーションモデル実験では一般的に台風の発生個数は減りますが、台風の強度 は増すという結果になっています。

図5:エルニーニョとラニーニャ期の台風経路
【参考文献】

Matsuura, T and R. Kawamura. 2007: Water- Related Disasters, Climate Variability and Change: Results of Tropical Storms in East Asia. Transworld Research Network. pp170.

Elsner, J. B. and T. H. Jagger, 2008: Hurricanes and Climate Change. Springer. pp411.

(地球科学科 松浦 知徳)
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Last modified 2008.09.30
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