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  富山大学 > 理学部・大学院理工学教育部理学領域 > トピックス > 2009年2月
トピックス
地球の重力は植物の進化にどのような役割を果たしたのだろうか?(生物学科)

 私たちがスポーツをしているときに,もし重力加速度がダイナミックに変化したらどうなるでしょうか。想像すると面白いのですが実際には起こりません。重力加速度は物理的な環境要因の中でも,ほぼ一定の方向・大きさで常にそこにある,ほとんど変化しない環境要因なのです。アイザック・ニュートンが万有引力の法則を発見するどのくらい前に,私たちはその存在に気づいていたかはわかりませんが,気づきにくかったのは確かでしょう。しかしながら,地球上の生き物は,ゾウリムシであろうとゾウであろうと,等しくほぼ1 gという重力加速度を常に受けているのです。
 私たちが,重力を実感することができるのは,どのようなときでしょうか。動くときに,より実感するのではないでしょうか。ではじっとして動かない植物は,重力の存在を実感しているのでしょうか。植物の生活に重力がどれほど影響しているのかなど,なかなか想像がつかないかもしれません。
 植物が水中から陸上に進出することにより,浮力がなくなるため植物体にかかる重力は見かけ上は6倍に増加しました。そしてさらに,地球上の1 gという重力加速度で自分の体にかかる重力に抗しながら植物は進化し,巨大な樹木も出現しました。100 mに生長したセコイアですと,その高さは30階建てのビルにも相当し,その幹の重さは軽く1000 tを越えます。しかも,何百年も何千年も生き続けるのです。植物はどうやってこんなにとてつもなく頑丈な体を作ることができたのでしょうか?その答えの鍵は,実は地球による重力にあるらしいのです。植物は重力とたたかい,手なずけるうちに,どうもとてつもない能力を獲得したようなのです。そのようなことが最近の研究から強くうかがわれるようになりました。
 ざっくばらんなお話はこれくらいにして,少し専門的なお話をします。動物も植物もその体は,細胞から成り立っていますが,植物の細胞はそのまわりを強い細胞壁で囲まれています。そして樹木の場合は,その体のほとんどが,細胞壁のなかでもリグニンという特徴的な成分とセルロースを含む,二次細胞壁とよばれる細胞壁から成り立っています。二次細胞壁を建築材料にたとえるなら,その構造は,鉄筋にあたるセルロースが,鉄筋を結びつける針金にあたるヘミセルロースによって結びつけられ,コンクリートにあたるリグニンがその間を埋めるというような形になっています。
 私たちは,植物体にかかる重力は植物を進化させてきた強力な要因の一つであるということの直接的な証拠をつかむため,リグニンや二次細胞壁形成が重力環境によって変化するか否かという検証可能な仮説を設定しました。地球上に異なる重力加速度の『もう一つの地球』を作るべく,というと大げさですが,遠心機を用いて1 Gより大きな重力加速度(過重力環境)を実現し,全ゲノム情報が解読されたモデル植物であるシロイヌナズナ(図1)をその中で育て,植物の生長と,リグニンおよび二次細胞壁形成に与える影響を調べました。
 その結果,過重力処理した植物の茎(花茎)はまず太く短く生長していました。また花茎をセルロース分解酵素とペクチン分解酵素で処理することによって二次細胞壁を単離し,花茎の単位長さあたりの重量を調べたところ,その値は増加し,またリグニン含量も増加することが示されました。その次に,過重力によって促進されるリグニンおよび二次細胞壁形成の仕組みを分子レベルで調べるため,金沢大学学際科学実験センターの西内巧博士と共同で,シロイヌナズナのマイクロアレイ(図2)を用いて22000個の遺伝子の発現を一気に調べるトランスクリプトーム解析を行い,過重力により細胞壁形成が遺伝子レベルで調節されていることを明らかにしました。その成果は宇宙科学の専門雑誌に掲載される予定です(Tamaoki et al. 2009)。
私たちは以上のことを含め,植物の生活環に与える重力の影響について,地球上の実験で得られた成果を検証するとともに未知の影響を探るために,国際宇宙ステーション(図3)における微小重力環境(μG)での実験を,富山大学客員教授・神阪盛一郎先生の指導のもとで計画しています。国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」(図4)の中で,ほぼ全自動でシロイヌナズナを育て,花を咲かせて種までとるための装置の開発に,研究室の院生や学生が一丸となって,宇宙航空研究開発機構(JAXA)や様々な方々と一緒に10年近く前から携わり,このビッグ・サイエンスの準備してきました(図5)。そして2009年の夏にはいよいよ,装置がケネディ宇宙センターからスペースシャトルに載せて打ち上げられ,秋から冬にかけて実験が行われます。その様子は世界に発信されます。乞うご期待!

(生物学科 唐原 一郎)


               図1 シロイヌナズナ
        図2 スライドガラス上にシロイヌナズナの22000個の
         遺伝子が載ったマイクロアレイ
            図3 国際宇宙ステーション(NASA提供)
  図4 国際宇宙ステーションに取り付けられた日本実験棟「きぼ う」
   (NASA提供)
           図5 植物栽培装置のフライトモデル(実物)
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Last modified 2007.11.01
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