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  富山大学 > 理学部・大学院理工学教育部理学領域 > トピックス > 2008年1月
トピックス
階層構造をもつ元素のナノ粒子  〜EXAFSで見えたテルル・ナノ粒子の構造〜 (物理学科)

 「物質をどんどん細かくしていくとどうなるか」、これは人類が始まってからの疑問です。物質を細かく割っていくと、分子・原子になり、その原子はさらに小さな原子核とそのまわりを飛び回る電子になります。電子は素粒子ですが、原子核はさらに細かく割ることができて陽子と中性子になります。陽子と中性子はまだ分割できて、実はクォークという素粒子からできています。素粒子はKEKを含めた日米欧の強大な加速器で精力的に研究されています。

 人類の英知はこのように極微の世界にたどり着いていますが、分子・原子よりも少し大きい、1〜100nm程度の世界が最近脚光を浴びています。新聞などでよく目にするナノ粒子・ナノテクのことです。nmとは10億分の1mのことですから、10億分の1mから1000万分の1mの大きさの世界です。インフルエンザウィルスが100nm、二重鎖DNAの直径が2nm程度ですから、皆さんが普段目にする物質に比べていかに小さいか分かるでしょう。(図1)

図1 いろいろな物の大きさの比較
図2 碁盤

 ナノ粒子のどんなところが面白いのでしょう。多くの物質は原子が規則正しく配置して、どこまでいっても同じ構造が、原子の大きさからすると無限に広がっています。原子同士が4本の手を出して互いに結びついている場合を碁盤に例えると、交点である目に原子が配置して、縦横線が結合に対応します(図2)。しかしながら、1台の碁盤からなる物質があったらどうなるでしょう。原子間隔を0.2nmとすると、碁盤ナノ粒子の大きさは3.6nm四方と、ナノ粒子の世界になります。碁盤は縦横19本の線を持ち、目は361個しかありません。中央付近は少し位置を変えても周囲の状況は変わりませんが、端になると状況は大きく変わってきます。碁盤ナノ粒子では、4辺に属する原子は72個であり、実に20%(=72/361)もの原子が境界に属します。このようにナノ粒子では表面に属する原子の割合が非常に大きくなり、表面原子の状態がナノ粒子全体の構造や物性に大きな影響を与えます。

 碁盤ナノ粒子の境界に位置する原子では、本来4本の手を出して周りの原子と結びつくところが、3本あるいは2本の手しか出せなくなります。したがって、中央付近の原子と異なって、他の種類の原子と結合したり、碁盤の形を変えたりせざるを得なくなります。このように表面原子の割合が大きいことや、サイズそのものが小さいことなどから、ナノ粒子は普通の物質とは大きく異なった構造や物性をもちます。

 ここまでは、半導体産業を支えているシリコンなどの4配位のナノ粒子をイメージしてきました。富山大学の池本弘之(いけもと・ひろゆき)准教授と弘前大学の宮永崇史(みやなが・たかふみ)教授のグループは、2つの手を出してできる鎖を基本構造として、鎖同士が相互作用するテルル(Te)のナノ粒子をKEK PF-AR NW10Aで広帯域X線微細構造(EXAFS)測定を用いて研究しました。彼らが作ったTeナノ粒子は、直径が3nm程度ですが、周りは食塩NaClに囲まれています。結晶Teは、どんな構造をとるのでしょう。図3に示すようにTe原子は2本の手を出して互いに結合し、螺旋状の鎖状分子を基本構造としています。鎖同士には弱いながらもお互いに結びついて、平行に並んでいます。言い換えると、鎖構造が基本構造で、鎖同士が弱く結びついた2次構造をとります。このように、Teは階層構造をとることに特徴があります。結晶中ではTeの鎖は平行に配置していますが、周りの鎖の影響が小さくなるとくねくねと折り曲がった柔軟な構造をとりえます。

図3 結晶Teの構造。Te原子(赤丸)が共有結合(緑線)で結ばれて、3回螺旋鎖を作っている。これらの螺旋鎖はお互いに平行に配置している。

 結果を述べる前に、彼らがなぜEXAFS測定を行ったか述べましょう。EXAFS測定は、通常の物質構造解析に用いられるX線回折とは異なり、X線のエネルギーによる物質の吸収の度合いの違いを利用します。大きな特徴としては、調べたい元素周りの構造だけを抽出できることと、物質がどのような構造をとっていても、例えば固体でも液体でも、大きくても小さくても、測定条件さえ整えれば綺麗なデータをとることが出来ます。まさに、NaCl中に埋め込まれた小さいナノ粒子の研究にうってつけの測定方法なのです。

 さて、EXAFS測定の結果、Teナノ粒子はどのような構造をとっていたのでしょうか。図4は、Te原子の周りにどれだけの原子がいるかを示したグラフです。一番高いピークは鎖内のTeにあたり、2番目に高いピークが隣の鎖上のTe原子にあたります。Teナノ粒子では、隣の鎖上にあるTe原子の数が大きく減っているのが分かります。詳しく解析した結果、基本構造である鎖は基本的に結晶と同じでした。すなわち、2本の手でTe原子が結びついていました。Te原子同士の距離は少し短くなっていて、Te原子同士の結びつきは強くなっています。そして、Teの鎖の長さは粒子の直径よりも長そうです。一方、鎖同士の結びつきは弱くなっていることが分かりました。Teナノ粒子では、鎖構造は保たれていても、元々弱い鎖同士の結びつきは弱くなっていました。Te鎖が長いことを考え合わせると、図5のように毛糸が丸まったイメージでしょうか。Teナノ粒子の直径よりも長いTe鎖が折れ曲がっています。もしも、このような構造が取れると、Te鎖の端っこは表面に出てくるとは限らず、内部にあるかもしれません。ナノ粒子で常に問題になる表面効果の影響が非常に小さいことになります。このことは、EXAFS解析から得られた結果からも支持されています。すなわち、Te原子はTe原子としか結びついておらず、周りにいるナトリウム原子や塩素原子とは結びついていませんでした。

図4 EXAFS関数のフーリエ変換。Te原子からどの位置にどれだけの元素があるかを示している。鎖内のTe原子が3Å付近と4.5Å付近にいて、隣接鎖上のTe原子が3.5Å付近と5Å付近に位置いる。
図5 Teナノ粒子のイメージ。色分けされた部分が個々のTe鎖に対応している。粒子よりも長い鎖が折れ曲がりながら丸まっていると推測している。

 彼らの結果は、階層構造をとる物質のナノ粒子が、金属元素あるいはシリコンなどの典型的な半導体元素とは異なり、特異な構造をとることを強く示唆しています。階層構造をもったナノ粒子の研究は始まったばかりですので、その構造をより深く探求したいと思います。さらに、どのような物性を示すのかも大変興味深いことです。無限に同じ構造をとる結晶を基盤としてきたこれまでの固体物理学は、一方向に100原子程度しかないナノ粒子の解析があまり得意ではありません。数原子から十数原子程度の関係が重要な意味を持つ、ガラスを含むアモルファス、あるいは液体などの構造不規則系の知識が新しい局面を開きそうです。

 この研究成果は、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に、10月19日に掲載されました。

 上記の原稿は、高エネルギー加速器研究機構HP (http://www.kek.jp/ja/index.html)のNews@KEKに掲載予定です。
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Last modified 2008.01.11
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