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  富山大学 > 理学部・大学院理工学教育部理学領域 > トピックス > 2009年7月
トピックス
 宇宙暗黒物質と宇宙線観測 (物理学科)
宇宙の質量、より正確には宇宙の平均質量密度がどの程度かご存知でしょうか?近年の宇宙観測の結果、この密度は 約10-29 [g/cm3]であることが判明しました。ではこの質量を生み出す物質は何?という問いに対しては驚くべき答えが 用意されていました。というのも、この密度のうち約73%は暗黒エネルギーと呼ばれる未知なるエネルギーから、 23%は暗黒物質と呼ばれる未知なる物質から、そしてたった4%が星やガス等の我々の良く知る物質だったのです。 現在、この暗黒エネルギーや暗黒物質の正体を探る研究が盛んに行われています。
図1 銀河とそれに付随する暗黒ハロー

今回の話は暗黒物質の正体に迫る最新の観測と理論のお話です。現在の宇宙では、暗黒物質は銀河や銀河団を包み込む 暗黒ガスの集まり、つまり暗黒ハローを図1の様に形成していることが様々な観測より明らかになっています。このハロー中で 暗黒物質はしばしば対消滅や崩壊を起こし、高エネルギー宇宙線の起源になっていると期待されています。このことに関連し 最近特に注目を集めているのが、宇宙線中の反粒子成分である陽電子と反陽子の観測です。そもそも宇宙線の主成分は陽子や 重い原子核ですが、これらの殆どは超新星爆発の際に生成されたと考えられています。一方宇宙線中の反粒子成分は、陽子や 重い原子核が宇宙空間を伝搬した際に2次的に作られますが、それは極々少量です。一方、暗黒物質の対消滅や崩壊では かなりの数の反粒子を生成します。そのため宇宙線中の反粒子成分には暗黒物質由来のものが含まれていると期待され、 これを詳細に調べることで暗黒物質の正体に迫ることが可能であり、各国が競い合って観測を進めています。
図2 PAMELA実験の結果

ごく最近の話ですが、宇宙線中の反粒子成分の観測を行っているPAMELA実験[1]で、非常に興味深い結果が報告されました。 というのも観測結果は、明らかに宇宙線の主成分から2次的に作られたものではない反粒子が存在することを示していたからです。 図2がその結果です。横軸は観測された宇宙線中の電子及び陽電子のエネルギーで、縦軸はそれぞれのエネルギーを持つ電子と 陽電子の飛来数の和に対する陽電子の飛来数の比です。宇宙線電子の数は宇宙線陽電子の数よりずっと多く、また2次的に 作られた宇宙線陽電子の数は、高エネルギーになればなるほど宇宙線電子の数より少なくなることが知られています。一方、 実験結果は図2より明らかなように宇宙線陽電子の数が電子の数に比べ増大しています。このことは、宇宙線陽電子は2次的に 作られたもの以外の何かを含んでいることを強く示唆しています。実際、理論的な計算から2次的に作られた陽電子の数を 予想すると、図2の直線となり、明らかに実験結果を説明することが困難です。
図3 PAMELA実験と超対称暗黒物質

それではこの異常な陽電子の振る舞いは一体何なのでしょうか?筆者を含む多くの宇宙物理学者は、この振る舞いは2次的に 作られた陽電子ではなく、暗黒物質の対消滅や崩壊により作られた陽電子ではないかと期待しています。たとえば暗黒物質の 候補の一つである超対称暗黒物質(より正確にはグラビティーノ暗黒物質)を考え、その崩壊により作られる陽電子を考えると、 図3のように見事に観測結果を説明することが可能となります[2]。一方、超対称暗黒物質以外の他の暗黒物質でも観測結果を 説明できる可能性も報告されており、現在この分野(宇宙暗黒物質と宇宙線観測)は、素粒子・核物理学及び天文学の 分野において最も熱くそして活発に議論されているトピックの1つとなっています。宇宙暗黒物質と宇宙線観測は 理論・実験ともに急速に発展しており、宇宙物理学における最大の謎の一つ、暗黒物質の正体について解明される日が 近づきつつある予感とともに今回のお話を終りとしたいと思います。



参考文献
[1] O. Adriani, et al, [PAMELA Collaboration], Nature 458 (2009) 607.
[2] K. Ishiwata, S. Matsumoto, and T. Moroi, Physics Letters B675 (2009) 446.

記事:准教授 松本 重貴
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Last modified 2009.07.31
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