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富山発(初)の物質を探して

【物理学科】2018年10月

 物理学科の磁気低温物理学研究室では、希土類金属間化合物の新奇な物性を探索するために、純良な結晶育成とその極低温物性測定を行っている。量子臨界現象、超伝導などの新奇な物性についてのお話しは、平成27年6月平成24年1月にすでに掲載されているので、今回は、単結晶育成について紹介する。

なぜ純良な単結晶が必要か?

 金属間化合物において、電気伝導、磁性、熱伝導、比熱などの物性を担うのは伝導電子である。原子や分子の規則正しく周期的な配列で構成された固体中では、伝導電子は周期的な配列の仕方に影響を受けて、物性が結晶の向きにより変化する。例えば、ある方向では電気が流れるが別の方向では電気が流れない物質があるが、そのような物質においては、結晶の様々な方向の物性を測定しないとその本質はわからない。このため、数mm程度とほとんどの物性測定ができる大きさで原子や分子が規則正しく周期的に配列した「単結晶」において、物性を測定することが物性物理では必要になる。
 さらに物性の本質を理解するためには、結晶の「純良さ」も必要になる。「純良さ」の目安は、結晶中に不純物がないことや、原子や分子規則正しく周期的な配列がしっかりなされているかということなどである。例えば、イッテルビウム系最初の重い電子系超伝導体β-YbAlB4においては結晶が純良でないと超伝導にならない[1]、YbAl3C3においては純良な結晶では1次相転移である構造相転移が、純良でない結晶だとあたかも2次相転移になるなど、本質と異なる物性が報告されることがある[2]。さらに、伝導電子の情報を得る実験手法として磁化の量子振動現象であるde Haas-van Alphen (dHvA) 効果を観測が非常に有力であるが、この観測のためには純良な単結晶が必須である。これらのことより、物性物理の研究においては、純良な単結晶の育成することが最も基本になる。

単結晶の育成について

 金属の結晶は、原材料を融点以上の温度にして溶かしてゆっくりと冷却して育成する方法が多い。私がこれまで、テトラアーク炉を用いた引き上げ法、気相成長法、ブリッジマン法、フラックス法などにおいて単結晶育成を行った。今回は、私が主な実験手法にしてきた引き上げ法とフラックス法について紹介する。

 まずは、引き上げ法について紹介する。引き上げ法は、代表的なものとしてシリコンウエハーの作製に用いられている。原材料を、アーク放電や高周波などで溶融して、その融液に種結晶を浸しゆっくりと種結晶を引き上げて単結晶を作る方法である。図1に、テトラアーク炉による単結晶試料の育成の様子と、図2に、テトラアーク炉を用いて実際に育成したThRu2Si2の単結晶試料を示す。

 

図1

図1. テトラアーク炉による単結晶の引き上げの様子。[3]

 

図2

図2. 引き上げ法により育成されたThRu2Si2の単結晶。[4]

 

 次に、フラックス法について紹介する。フラックスとは、育成原料を溶かし込む、溶媒の事を指していて、フラックス法ではこのフラックス中に原料を溶かし、降温、蒸発、温度差等により、原料の過飽和状態をつくり出すことで、目的の物質を析出させる方法である。簡単な例だと、小学生の自由研究などで塩の結晶を作製するときがあるが、それがフラックス法である。塩の単結晶を育成するとき、原料である塩をフラックスである水に溶かし、飽和食塩水にする。この状態で水分が蒸発すると溶けている塩が析出して塩の単結晶が育成される。実際の、金属間化合物においては、フラックスとして低融点のガリウム、インジウム、スズなどを用いて結晶育成を行うことが多い。図3にURhIn5, 図4にUPtInのフラックス法により育成された単結晶を示す。結晶構造が正方晶であるURhIn5の単結晶は、[001]方向が短く(001)面に平べったい単結晶が育成された。一方、六方晶UPtInは[001]に細長い単結晶が育成された。このように、フラックス法で育成された試料では、結晶方位を示す平面が良く観測される。

 

図3

図3. フラックス法により育成されたURhIn5。[5]

 

図4

図4. フラックス法により育成されたUPtIn。[6]

 

 フラックス法において、目的の結晶以外のものが偶然育成されることがよくあり、新物質の発見につながる。図3で示した、URhIn5は、最初はURhInの育成を試みて、偶然に発見した。UPtInも初めての単結晶化に成功したが当初は、U2PtIn8の新物質探索を試みていて、偶然に成功したものである。現在、私が行っている、R2Tr2Sn2Zn18(R:希土類、Tr:遷移金属)系の物質も元々、富山大学名誉教授の石川義和先生が、フラックス法において偶然に発見した新物質群である。新しい物質の発見は、新しい物理現象の発見にもつながる可能性があるため、フラックス法は魅力的な育成法である。現在、卒研生と一緒に新物質の探索を目指しているところである。

 

参考文献
[1]S. Nakatsuji et al., Nature Phys. 4, 603 (2008).
[2]A. Ochiai et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76, 123703 (2007).
[3]日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター 旧アクチノイド物質開発研究グループホームページより
[4]Y. Matsumoto, et al., JPS Conf. Proc. 3, 011096 (2014).
[5]Y. Matsumoto, et al., Phys. Rev. B 88, 045120 (2013).
[6]Y. Matsumoto, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 87, 024706 (2018).
[7]Y. Isikawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 84, 074704 (2015).

 

(物理学科 松本 裕司)