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熱帯の雨が北陸に雪を降らせる?(前編)

【地球科学科】2018年4月

 日本の四季は、夏には南西寄りの風、冬には北西寄りの風といった具合に、季節ごとに違った方向からの風によって特徴付けられています。こうした風のことを「季節風」とよびます。冬の季節風は北西からの風で、大陸上の非常に冷たく冷やされた空気(-20~-30℃以下にもなります)が、この風に乗って日本海に向かって強く吹き出してくることになります。この季節風は、日本海を渡る間に海から熱や水蒸気をもらって、日本海の沿岸域では冬季に多くの降水がもたらされます。

 気象庁の報告1)によると日本海では、冬季の海面温度が近年著しく上昇していることが分かっています。冬季の降水の起源は日本海の暖かい海ですので、海面温度が上昇しているなら冬季の降水量が日本海沿岸域において増加している事が想像されます。そうした背景から、冬季の降水量の変動について、気象庁の測候所で観測されてきた長期間にわたる降水データを用いて、学生さんと一緒に調べてみました。

 北陸に位置する6地点における月積算降水量を、1940年代から示したものが下図1になります。1980年以降の傾向に関して、1月や2月、11月には降水量の変化がほとんど見られませんが、12月だけ降水量は1980年の中頃から顕著な増加傾向を示し、約30年間で1.5倍以上の増加となっていることが分かります。さらに範囲を拡げて詳しく調べてみると、こうした12月における降水量の増加は、北陸で最も顕著であるものの、東北から中国地方まで広く見られる現象だということも分かりました(図2)。

図1

図1: 北陸に位置する6地点(新潟、高田、富山、伏木、輪島、金沢)における月積算降水量の長期変化。

 

 

 

 

図2

 

図2: 1988年から2015年のアメダス観測値を用いた月積算降水量の長期変化。暖色系は増加傾向、寒色系は減少傾向を示す。また相対的に大きな丸印は傾向が明瞭であること、小さな丸印は傾向がやや曖昧であることを表している。

 

 

 では、これは本当に日本海の海面温度の上昇が原因なのでしょうか?また何故、12月だけなのでしょうか?

 北陸における降水量が、日本海の海面温度とどの程度の関係性を持っているかを調べてみると、確かに「北陸における降水量」と「日本海の海面温度」には、11月、12月、1月、2月、いずれの月でも、比例的な関係があることが分かりました。即ち、日本海の海面温度が何らかの原因で上昇すると、北陸の降水量も増加する傾向にある、ということになります。しかし、その結びつきはあまり強くなく、「たまたま(偶然)」であることを否定できない程度の弱いものでした。また12月だけ結びつきが特別強いということもありませんでした。これらの結果は、海面温度だけでは降水量の増加を説明するのに不十分であることを意味しています2)

 ここで北西からの季節風に注目して、北陸における降水量と季節風の強さの関係を、海面温度と同様に調べてみました。すると海面温度よりもずっと比例的な関係性が得られました。更に、この冬季の季節風の長期変化に注目すると、12月だけ近年に明瞭な強化傾向がみられることも分かりました(図3)。即ち、12月の降水量の増加は、海面温度の上昇というよりは、季節風が強くなっていることが原因だった可能性が高いということになります。一方で11月や1月や2月に関しては、海面温度は上昇しているものの、季節風は殆ど変化していないため、降水量にも変化が見られなかったという訳です。

 

図3

 

図3:季節風の強さ長期傾向(1988年から2015年)。暖色系は強化傾向、寒色系は弱化傾向を示す。また図中の黒印は、その傾向が明瞭である場所を示している。

 


 では最後の疑問として、「何故、12月だけ北西からの季節風が近年強まっているのか?」になりますが、この季節風強化の原因に関しては、タイトルの通り日本から遠く離れた「熱帯」が関係してきます。しかしこの説明にあたっては、ちょっと専門的に難しい話も入りますので、後編をお待ち下さい。もしもう少し詳しく知りたいとか、結論を早く知りたいと思った方は,是非うちの研究室に一度お越しください。
 なお以上の話は,アメリカ気象学会(AMS)の専門誌Journal of Hydrometeorologyに掲載された論文から一部抜粋したものです。より深く知りたい場合には,下のYasunaga and Tomochika (2017) 3)の文献を参考にしてください。Open Accessにしてありますので、どなたでもご覧になれます。

   

 

 


(地球科学科 安永 数明)