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生態系を動かす、寄生虫の宿主操作

【生物圏環境科学科】2017年10月

 寄生虫には、宿主の行動を自身に都合の良いように操作するものが知られています。例えば、カマキリやカマドウマの寄生虫であるハリガネムシは、自身が水中で産卵するために、宿主が水に飛び込むようその行動を操作します。また、成長の過程でネズミからネコに宿主を変える、トキソプラズマという原虫(単細胞の寄生虫)は、ネズミに感染すると、ネズミのネコに対する恐怖心を減らし、ネズミがネコに食べられやすくします。これにより、トキソプラズマはネズミからネコへと宿主を変えることができます。ちなみに、トキソプラズマはヒトにも感染しますが、ヒトの性格にも影響すると言われています(世界の人口の約1/3が感染していると推測されています)。

 

マルハナバチタマセンチュウ写真

 

 

 今回紹介する、マルハナバチタマセンチュウ(写真)も、マルハナバチの女王バチに寄生して、その行動を操作する寄生虫です(マルハナバチは、以前の記事<平成20年12月>でも紹介しましたが、多くの植物種の受粉に貢献していて、生態系の中で非常に重要な役割を持つハナバチの仲間です)。通常、マルハナバチの女王は、春に越冬から目覚めると、初夏までには地中で営巣し、地上にはでてこなくなります(図上)。しかし、マルハナバチタマセンチュウに感染した女王バチは営巣を行わなくなり、夏まで花から採餌を続けます(図下)。そして、ときおり地面付近を徘徊飛行しては地中に潜り込み、女王バチの体内で産まれたマルハナバチタマセンチュウの幼虫を地中に放出します。マルハナバチタマセンチュウに感染した女王バチは、越冬から目覚めた後も、越冬場所の近くで活動し、遠くに移動しなくなることもわかってきました。

 

図_マルハナバチタマセンチュウ生活史

 

 さて、マルハナバチタマセンチュウによる感染が多く見られる地域では、夏になっても多くの感染女王が、営巣をせずに、花から花蜜を採餌しているのが観察されます。私の研究室では、北海道のアカツメクサ・シロツメクサ群集を対象にした調査で、タマセンチュウによる感染が多く見られる地域では、植物と訪花昆虫達の関係が変化していることを示しました。この変化は、体の大きな女王バチが、他の多くの訪花性昆虫よりも長い口吻(舌)を持っていて、花蜜の要求量も大きいため、感染が高頻度で見られる地域では、花筒が長い花(この場合はアカツメクサ)の資源が枯渇しやすくなることが原因でした。その結果、アカツメクサで採餌をする他の訪花昆虫が、アカツメクサで盗蜜(花の横に穴を空けて蜜を吸う行為)をするようになったり、アカツメクサよりも蜜が少ないシロツメクサで採餌するようになったりしていたのです。こうした植物と訪花昆虫の関係の変化は、植物種の繁殖成功に影響するでしょうし、ひいては生物群集全体にまで影響していくかもしれません。

 

 この研究は、宿主の行動を操作する寄生虫が、宿主の行動改変を通じて、宿主ではない生き物たちにまで影響を及ぼしうることを示しました。このような事例は、他にも幾つか報告されています。例えば、ハリガネムシによって水に飛び込んだカマドウマなどの昆虫は、ある河川に生息するヤマメの貴重な食料になっていると報告されました。また、湖や池の底のほうに生息しているヨコエビに寄生する鉤頭虫[コウトウチュウ]の幼生は、宿主のヨコエビを水面へ誘導します。この鉤頭虫による感染が多くみられる池では、水面に集まって食べやすくなったヨコエビを目当てにした水鳥が、他の池よりも多く集まるようになることが報告されています(鉤頭虫の幼生は水鳥の体内で成体になります)。このように、私達の目には止まりにくい寄生虫ですが、気がつかないところで、生態系を大きく動かしているのかもしれません。

 

【参考文献】
Kadoya EZ, Ishii HS (2015) Host manipulation of bumble bee queens by /Sphaerularia/ nematodes indirectly affects foraging of non-host workers. *Ecology *96: 1361-1370.


(生物圏環境科学科 石井 博)