English中文簡体字한국어
トピックス

HOME>トピックス

有機ポリマー中における長寿命光電荷分離の生成

【化学科】2017年9月

 光電荷分離は、ある中性分子に光を照射したときに生じる光励起状態から、電子アクセプター分子あるいは電子ドナー分子との間で電子移動が起き、大きな化学エネルギーをもつ陽イオン-陰イオン対(これを電荷分離状態と呼ぶ)を生成する反応です。

 

図1

図1 光エネルギーを化学エネルギーに変換する光電荷分離反応

 

 

光電荷分離は、光エネルギーを効率よく電気エネルギーや化学エネルギーに変換するために、最も重要な光反応です[1]。生じた電荷分離状態は、高い還元力あるいは酸化力をもっているので、酸化還元反応を起こすことができます。例えば、光合成の初期過程では、まず環状に並んだ多数のクロロフィルからなる集光アンテナが吸収した光エネルギーが、光合成反応中心にあるクロロフィル二量体に集まり、その光励起状態を生成します。次いで、クロロフィル二量体の励起状態から、極めて短時間にプラストキノンに電子移動が起きて、長寿命の光電荷分離が生じます。この光電荷分離は、その後いくつかの反応を経て、水を酸化して酸素を生成する反応とNADP+のNADPHへの還元に利用されます[2]。また、光電荷分離は、現在研究が進められている色素増感型太陽電池や有機薄膜太陽電池においても、光エネルギーを電気エネルギーに変換する初期段階で最も重要な役割を担っています。

 

図2

図2 電子ドナーであるトリフェニルアミンと電子アクセプターである
ナフチルジイミドをジフェニレンアセチレンで架橋したD-A化合物

 

 

 光エネルギーを高効率で利用するためには、高効率で光電荷分離状態を生成し、さらにそれを効率よく反応に利用する必要がありますが、実際には一部の電荷分離状態は電荷再結合によって光エネルギーを失ってしまいます。このため、いかに電荷再結合を遅くして、高エネルギーの長寿命の電荷分離状態を実現するかという分子設計が、光エネルギー利用において重要な鍵となっています。これまでに溶液中や低温凍結溶媒中での光電荷分離については、非常に長寿命の電荷分離が実現できています[3]。しかし、光電荷分離を固体有機素子に応用するためには、固体中やポリマー中で長寿命の電荷分離を実現する必要がありますが、ポリマー中の電子移動反応については、まだ十分解明されておらず、長寿命の電荷分離の成功例がありませんでした。我々の研究グループは、図2に示したトリフェニルアミン(電子ドナーD)とナフタレンジイミド(電子アクセプターA)をジフェニレンエチニレンで架橋したD-A化合物が、身近な透明ポリマーであるポリスチレン中で非常に長寿命の電荷分離状態を生成することを見出しました[4]。このD-A化合物を分散したポリスチレンフィルムに波長355nmの紫外線を照射すると、光電荷分離により、トリフェニルアミンカチオンとナフタレンジイミドアニオンを分子内にもつ電荷分離状態が生成することが観測されました。さらに、紫外線照射後のフィルムの紫外可視吸収スペクトルの時間変化から電荷分離状態の寿命を決定すると、0.40秒という非常に長寿命であることが明らかになりました(図3)。

 

 

図3

図3 ポリスチレン中に分散させたD-A化合物を光照射して生じた非常に長寿命の電荷分離状態(CS)

 

 

 この化合物をトルエン溶媒に溶かした溶液に紫外線を照射すると、ポリマー中と同様に、電荷分離状態を生成しましたが、寿命は400マイクロ秒でした。トルエンはポリスチレンと類似の分子構造をもつ有機溶媒ですので、D-A化合物周りの分子環境はほとんど同じと考えられます。しかし、ポリスチレン中ではトルエン中よりも電荷分離状態の寿命が1000倍も長くなったことから、ミリ秒以上の長い電荷分離状態を実現するためには、架橋部のねじれや構造変形などの分子運動の抑制が非常に重要であることが明かになりました。さらに、電荷分離の寿命の種々のポリマー依存性を検討することにより、ポリマーの物性と電荷再結合の速度との関係について定量的な解析が可能であることが明らかになりました。今後の研究で、ポリマー中で更に長寿命の電荷分離が実現できれば、3D光メモリやフォトクロミック材料などに応用できると期待されます。

 

参考文献 

  •  [1] 配位化合物の電子状態と光物理、山内清語、野崎浩一編著、三共出版(2010年)
  •  [2] 金属錯体の光化学、佐々木陽一、石谷 治編著、三共出版(2007年)
  •  [3] “Highly Efficient Photoproduction of Charge-Separated States in Donor-Acceptor-Linked Bis(acetylide) Platinum Complexes”, S. Suzuki, R. Sugimura, M. Kozaki, K. Keyaki, K. Nozaki, N. Ikeda, K. Akiyama, K. Okada, J. Am. Chem. Soc., (2009), 131, pp 10374-10375.
  •  [4] “Very Long-Lived Photoinduced Charge-Separated States of Triphenylamine–Naphthalenediimide Dyads in Polymer Matrices”, K. Kimoto, T. Satoh, M. Iwamura, K. Nozaki, T. Horikoshi, S. Suzuki, M. Kozaki, K. Okada, J. Phys. Chem. A, (2016), 120, pp 8093–8103.

 


(化学科 野﨑浩一)