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赤かび病菌に対する植物の侵入抵抗性を評価するイメージング法の開発

【生物学科】2017年7月

 赤かび病菌(Fusarium graminearum etc.)はムギ類などに感染し,これらに甚大な被害をもたらす植物病原糸状菌です.加えて,この菌が産生するトリコテセン系かび毒はヒトや家畜に深刻な健康被害をもたらすことから,世界的に問題になっています.赤かび病菌は植物体上で発芽し,菌糸を植物体内へ侵入・進展させ,かび毒を生産します.従って,菌糸の植物体内への侵入を防ぐことができれば穀物のかび毒による汚染を防除する上で非常に効果的です.しかし,菌糸の植物体内への侵入機構およびこれに対する抵抗性のメカニズムについては不明な部分が多いです.私たちは赤かび病菌に罹病性であり,変異体や形質転換体などの実験リソースが整備されているシロイヌナズナを用いて,赤かび病菌に対する植物の侵入抵抗性のメカニズムについて研究を進めています.赤かび病菌は感染過程において,以下の2つの経路により植物体内に侵入すると考えられています.

 

図1

図1 透明化処理を行ったシロイヌナズナの葉

図2

図2 共焦点顕微鏡観察により得られた連続光学切片像を重ね合わせた画像.赤かび病菌菌糸が気孔から侵入しているのがわかる.マゼンダ:WGA-Alexa 488で染色した赤かび病菌菌糸, 黄色:PIで染色した細胞壁.

図3

図3 図2の菌糸イメージから作製した菌糸のモデル. 黄色:気中菌糸,マゼンダ:葉内に進展した菌糸,ライトブルー:表細胞と気孔の輪郭. モデル化することで菌糸長を定量的に解析できる.

 経路1: 気孔から侵入する経路
 経路2: 表皮細胞の細胞壁を分解し侵入する経路


 まず経路1より植物体内への侵入を試み,菌糸の伸長が進み葉上の気中菌糸(=分解酵素の生産工場)が増加することで経路2へと侵入様式が変遷する可能性があると私たちは考えました.しかし,赤かび病菌は侵入時にいもち病菌の付着器のような侵入のための特別な構造体を形成しないので,従来の菌糸の観察方法(トリパンブルー染色による観察など)では植物体内に侵入したか否かを判別することができません.そこで私たちは経路1および経路2の侵入様式を識別する共焦点顕微鏡イメージング法を確立し,それを定量的に評価することを目指しています.


 私たちは,Wheat germ agglutinin (WGA),  alexa fluor conjugate により菌糸を,葉の細胞壁をよう化プロピジウム(PI)により蛍光染色しました.更にサンプルを透明化処理し(図1),共焦点顕微鏡観察することにより,葉の表側から裏側まで葉と赤かび病菌菌糸の連続光学切片像を取得することに成功しました(図2). 植物組織はPI染色することで,細胞の輪郭を可視化することができ,表皮細胞と葉肉細胞を見分けることは容易であったので,葉の内部と外部を画像から判断することができました.また菌糸が気孔から侵入し,葉内で進展している様子を観察することができたことから,今回確立した方法で,赤かび病菌の侵入様式を識別することができると考えています.


 またモデル作成ソフトウェアを用いることで菌糸のモデルを作製と,菌糸の侵入度合いの定量的な解析も可能になりました (図3).現在は手作業でモデル作成を行っていますが,今後大量の画像を処理する場合,モデル作製の簡易化が必要となってきます.得られる画像データのノイズを減らし,バックグランドを抑え,菌糸のシグナルのみを検出できるようになれば,菌糸像の判別の自動化も容易になると考えています.そのためには染色・固定・マウント条件の細かい調整と,使用する共焦点顕微鏡の種類,画像処理方法をより最適化していく必要があります.今後はこのイメージング法を使って突然変異体の侵入抵抗性について評価することで,侵入抵抗性に関与する因子を同定し,赤かび病菌に対する侵入抵抗性の仕組みを明らかにしたいと考えています.

 

 この研究は金沢大学遺伝子研究施設 西内巧准教授と共同で進めています.

 

(生物学科 玉置 大介)