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重力波から宇宙を探る:KAGRAと富山大学理学部

【物理学科】2017年6月

1. 重力波とは何か、そして初検出

  一年少し前の2016年2月、アメリカのLIGOによる重力波の直接検出の成功が大きなニュースとして世界中を駆け巡りました。なぜそれほど大きいニュースだったのでしょうか。
 1915年アルバートアインシュタインは一般相対性理論を完成させました。これはニュートン以来の重力に関する考えを一新するものでした。一般相対論によるとたとえば大きな質量をもつ星があるとその周りの時空が歪みます。その近くを小さい物体が通過すると時空が歪んでいるため、それにより軌道が曲がってしまいます。これをニュートン以降アインシュタイン以前は星による重力によって小さい物体がまっすぐに進めないと理解してきたわけです。
 1916年にアインシュタインはこの一般相対性理論をもとにして重力波の存在を予言しました。先の例でいうと時空の歪みのもととなる星が突如大きく変動すると時空の歪みも変化してそれが光速度で周りに伝わっていきます。これが重力波です。しかし重力波は大変微弱でその検出は困難を極めました。一般相対論は他にもニュートン重力にはない現象を予言しましたが、重力波の直接検出が最後まで残り、アインシュタインからの最後の宿題とまで言われていました。この最後の宿題が100年越しでやっと解決した、というのがニュースとなった主な理由の一つです。

 この初検出で我々が驚いたのは2つのブラックホールからなる連星が合体したときに発生した重力波だったということです。初検出は中性子星というコンパクトで重い星の連星の合体から発生した重力波だと予想されてきました。なぜなら中性子連星は存在することがわかっていました(中性子連星の発見に対してノーベル物理学賞が授与されています:1993年 Russell A. Hulse and Joseph H. Taylor Jr.)が、ブラックホール連星が存在するかはよくわかっていませんでした。というのは重力波以外の手段で観測するのは難しいからです。つまり重力波自体が新たな宇宙や星の観測手段(重力波天文学)となることをこの上もなく明瞭にしめしたということになります。

2. 今後の重力波検出

  では100年越しの夢がかなってすべてめでたしめでたしで重力波の研究はおしまい、でしょうか。ここでちょっと違う話題、ニュートリノ、のことを考えてみましょう。ニュートリノの解説は2016年(平成28年)11月にこの理学部のトピックスで杉山先生が解説されているので詳しくはそちらご覧下さい。ニュートリノの直接検出も大変難しく、ノーベル賞の対象になっています(1995年:Frederick Reines)。ではニュートリノの研究はこれで終わりかというとそうでなくその後も重要な発見が続いています。ノーベル賞だけみても、ニュートリノは複数の種類(世代)があることの発見(1988年:Leon M. Lederman, Melvin Schwartz and Jack Steinberger)、世代の間で質量に差があることの発見(2015年:梶田 隆章 and Arthur B. McDonald)、ニュートリノによる天文学(2002年:Raymond Davis Jr. and 小柴 昌俊)があります。
 重力波に話を戻すとブラックホール連星の発見で驚くことの一つはブラックホールの質量が太陽の30倍程度だったことです。これまで想定されてきたブラックホールの質量は太陽のたかだか数倍程度か逆に100万倍以上でした。このためどのようにしてこのようなサイズのブラックホールが生成されたのかというのが大きな問題の一つとなっています。解決のためには多くのブラックホール連星を観測することが必須となります。以上のことから国際的な流れとして現在のLIGOの目標より10倍よい感度の検出器(歴史的経緯から第3世代と呼ばれています。現在のLIGOは第2世代)を建設することを目指し始めています。感度がよければより遠く、つまりより多くのブラックホールを観測することができます。また天文学ということから重力波がやってきた方向を精度よく決める必要があります。このためには検出器を世界の複数の箇所に建設しなければなりません。というのは1台だけでは全く方向を決定できないからです。複数台あると重力波の到達時間の差から方向を決めることができます(LIGOは2箇所に検出器を建設していますが、それだけでは精度よく決まりません)。

3. 日本の重力波検出器 KAGRA

  このような流れの中、日本では岐阜県飛騨市神岡町でKAGRAの建設と開発が進められています。KAGRAも第2世代ですが、他にない大きな特徴があります。まず地下(鉱山内)に建設するということです。重力波検出にとって大敵である地面振動が都市近郊より100倍小さいからです。さらに熱雑音というもう一つの雑音を低減するために検出器の重要な構成要素である鏡を冷却することです。これらは特徴や技術は第3世代の検出器で導入を検討されており、その点からKAGRAは先端を走っています。

4. 富山大学の役割

 富山大学理学部は車を使えばKAGRAからわずか一時間という地の利を活かして大きく貢献しています(2014年(平成26年)12月の理学部のトピックス(加川智大)も参照ください)。
 そのうちの一つがレーザーの強度安定化です。検出器の光源であるレーザーのパワーの揺らぎは雑音の原因となりますが、これを極限まで抑える技術の開発を行っています。今年の7月に最初のKAGRAへの設置作業が行われる予定です。
 また高感度化のためパワーリサイクリングという技術を導入する必要があります。これの実現のためにKAGRAでは”グリーンレーザーロック”という手法を採用しました。これの開発も行っています。
 そして最近始まったのが検出器の最重要部品の一つである鏡を吊るすための準備です(この鏡が20K(-253℃)程度まで冷却されます)。吊るすためには耳と呼ばれる部品を鏡の側面上の正確な位置に接合する必要があります。今年の2月末からその準備を始めています。今年の夏に鏡と耳の接合を行います。
 これを読んでいる高校生の皆さん、富山大学理学部にきてKAGRAに参加してみませんか?

 

 耳がついたKAGRAの鏡のプロトタイプ:これは本物の鏡ではありませんが、ほぼ同じサイズで、本物と同じサファイアでできています(本物の鏡は直径22cm、厚さ15cm、質量が23kgです)。

 

 鏡の耳を接合する作業:これは富山大学理学部のクリーンルーム内の写真です。本番の接合の前の予行練習(鏡はダミーを使っている)を行っています。耳を接合後、正しい位置にあるか測定しているところです。接合するときに埃が入ってはいけないのでクリーンルームの中で写真のような特殊な服を着て作業しています。

 

(物理学科 山元 一広)