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液滴を操るマイクロフルイディクス技術とそのライフサイエンスへの応用

【化学科】2016年8月

 マイクロフルイディクス(マイクロ流体工学)とは、半導体の作製等に用いられる微細加工技術により、マイクロメートルサイズの溝(流路)をスライドガラス上に構築し、その中で液体を様々に操る技術および研究分野です。通常の化学実験では、ミリリットル(10-3 L)〜マイクロリットル(10-6 L)スケールの液体を主に扱います。マイクロフルイディクスを用いれば、その1/1000(ナノリットル、10-9 L)以下の非常に微量の液体を精度良く扱うことができます。これにより、使用する溶媒等の薬品の量を大幅に減らしたり、溶液の混合や化学反応の測定などを極めて厳密に行うことができるため、化学・生物学分野において幅広い応用が期待されている技術です。


 マイクロフルイディクスの分野では、これまで、均一な(連続相の)液体を扱う研究が主流でした。これに対して、近年の技術発達により、流路の中に不連続相を作り出すことが可能になり、注目を集めています。不連続相とは具体的には、水溶液がオイルに分散した油中水エマルジョンのことです。すなわち、油相に分散した液滴(ドロップレット)を扱うため、この技術体系は「ドロップレット・マイクロフルイディクス」と呼ばれています。一つ一つの液滴はピコリットル(10-12 L)のオーダーで、かつ非常に大きさの揃った液滴を作り出すことができます。この個々の液滴は、それぞれ独立した微小なマイクロリアクターと見なすことができ、その内部で極めて多種類の化学反応を平行して行うことが可能です。そのため、化学反応の網羅的な(ハイスループットな)解析に応用できると期待されています。


 このドロップレットの内部は水溶液であるため、水溶液中で行う反応、すなわちライフサイエンス(生命科学)との相性が非常に良好です。液滴の内部には、水溶性の物質はもちろんのこと、水溶液中で分散可能な固形物や細胞など、様々なものを封入できます。このことを利用し、核酸やタンパク質のような生体高分子、遺伝子や細胞の高速解析・探索(スクリーニング)が可能になります。また、生物のダーウィン進化を模倣することで生体高分子を実験室内で進化させる「進化分子工学」に応用することもできます。

 

 私たちの研究室では、生体内で重要な機能的役割をもつ核酸分子であるRNA(リボ核酸)を素材として用い、このドロップレット・マイクロフルイディクスを活用することで、RNAを細胞のような液滴の中で人工的に進化させることを目指して研究を行っています。まず応用面では、微小空間という特殊環境を利用して、これまでにない有用なRNA分子を創り出す方法論の確立が期待されます。また、基礎科学の観点からは、生命の起源における有力な仮説の一つであるRNAワールド仮説に基づき、RNAの初期進化において、細胞のような構造がどのような役割を果たしたかを実験的に検証することができると考えています。


(化学科 松村 茂祥)