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富山湾特有の高波浪「寄り回り波」

【地球科学科】2016年7月

 冬季の富山湾には,年に数回「寄り回り波」と呼ばれる高波浪が来襲します.湾内の気象・海象が穏やかな時に突如として押し寄せることから警戒が難しく,人的あるいは沿岸構造物への被害がしばしばもたらされています.最近の事例として2008年2月24日に富山港で,波高9.92m,周期16秒の高波浪が全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)により観測されました.この被災に対する報告書が2008年10月に出ており,これを機会に予測に向けた研究が多数行われエネルギー平衡モデルを使った追算や予測が進展しました.しかしながら,これらの研究において外洋に面した輪島や直江津では割合精度の良い結果が得られていますが,富山港では波高の誤差が大きく,その原因がまだ明らかとなっていません.我々は,その原因に対し富山湾の複雑な地形に着目し,波浪の変形としての回折と屈折を数値的に調べました.それらについて詳細に解析した結果,寄り回り波の波浪特性に与える海岸線地形と海底地形の影響が重要であり,これらの効果を再現できるモデルを使用し適切な解像度の状況で追算をしたところ精度の向上が図られました.そこで,この結果について紹介します.


 追算に使用したモデルは,SWAN(Cycle3,ver.40.91:Simulating Waves Nearshore)で、デルフト工科大学により開発され、浅海域から極浅海域での波浪の特性を考慮した第三世代波浪推算モデルです。このモデルは,現在世界の波浪予測を実施しているグループが,使用および高精度化を目指しているモデルの一つです.日本海-富山湾の海域を異なる解像度の3つの海域(海域1: 5km,海域2: 1km,海域3: 100m)で設定しました.なお,外力としての風応力には気象庁の Meso Scale Model(MSM) 風データを使用しています.寄り回り波の特徴の一つとして,高波浪が頻繁に来襲する地点としない地点のあることが挙げられます.富山湾内において,被害地点は氷見,新湊,滑川,入善の4地点に集中しています.加えて各被害地点で,高波浪の来襲する時間が異なることも特徴です.このような寄り回り波の特徴の要因の一つとして考えられるのが,富山湾の海底地形です(図1).富山湾は,深いところで水深1000mを越え,複雑に入り組んだ海底谷を有しています.この海底谷の沿岸側で屈折したうねりが集中する地点ができ,被災地点が限定されると考えられます.また,海岸にかけて急激に水深が変化する富山湾独自の海底地形は「藍瓶」と呼ばれ,うねりが減衰せずに海岸線まで伝播する条件を備えています.SWANではこのような海岸線地形と海底地形の影響を考慮することが出来るのが特徴です.


 富山湾沿岸域を100mの解像度で2008年2月に起きた寄り回り波の追算を実施しました.図2 に示されるように2月24日3時には北海道沖-東北沖を通過した温帯低気圧によって発生・発達した波浪が富山湾に向かって伝播してきていますが,富山湾沿岸にまだ寄り回り波は現れていません.その後,うねりは沿岸に到達し,特に,東から水橋,岩瀬,四方,海老江,新湊,伏木で海底地形の変化に伴う屈折効果で急激に高波浪が発生しています(図3).本追算の伏木港での波高推算結果は,解像度100mでは最大3.72mと,観測最大値とは0.4mの差があるものの,ピーク時の再現度が高くなり波高の再現性が改善されています(図4).沿岸では屈折効果が強く,寄り回り波の波浪推算の精度を高めるにはこの海底地形を適切に考慮する必要があます.海底地形の影響を適切に反映することができれば,寄り回り波の予測精度は向上できることが示されました.


 1980年代に海洋の研究を始めたころ,海洋の中規模渦(空間スケール:数100km,時間スケール: 数か月〜1年)が観測されるようになり脚光を浴びていました.そのころ,波浪研究は既に成熟しており,新しい研究テーマというより実用化(波浪推算-予測)が求められ,最先端の研究テーマとみられていませんでした.近くの研究室には,波浪におけるMitsuyasuスペクトルとして世界的に著名な光易先生がおられましたが,当時は波浪研究にそれほど興味を持っていませんでした.しかし,ほぼ30年後の2008年に富山湾で「寄り回り波」による浸水害が起き,富山大学に赴任した早々,寄り回り波の解明・予測研究に取り組むことになりました.既に研究を始めて5年以上経ちますが,今回の紹介のように成果が出始めています.今後の発展として我々の研究室では,2次元的な波浪の変遷を調べることに利用できるようになった衛星画像データ(ALOS/PALSAR) の解析を進めています.また,波浪研究として未解明の「沿岸域での波浪と流れの相互作用」の研究に取り組んでいく予定です.


文献
・大田俊紀,松浦知徳,村上智一,下川信也(2016):地形効果による寄り回り波の波浪特性,土木学会論文集B3(海洋開発) 特集号 (Vol. 72, No.2)


(理学部地球科学科 松浦知徳)

 

図1 図2

図1.富山湾の海底地形図

図2.2008年2月24日3時における日本海の波高分布.ベクトルは風,カラーは波高を示している.

 

図3

図3.2008年2月24日12時における屈折の影響を受けた富山湾沿岸の波高分布.赤い部分が屈折による波高の高まった海域を示している.

 

 

図4

図4.伏木港の波高の時系列分布.モデルの解像度が5km,1km,100mと高解像度になるにつれ観測値に近づき追算精度が向上する.