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東北沖海溝型巨大地震でタガが緩んだか,活発化する地殻変動とGPS観測

【地球科学科】2015年2月

図1 立山施設観測塔から南向きに撮影された夜景(撮影:島田 亙)

 阪神淡路大震災を起こした1995年兵庫県南部地震以降,西日本は活断層型地震の活動期に入っていて,次の南海トラフの海溝型巨大地震の発生でこの活動期が終息に向かうとされています。そんな中,太平洋プレートの沈み込み口の日本海溝で超巨大な2011年東北地方太平洋沖地震が発生し,その影響で日本列島は広域的に地震・火山の活動が活発になっていると言われます。このことについて,地球科学科が実施している野外観測から言えることを紹介します。

 

 2014年御嶽山の水蒸気噴火

 富山大学立山施設は,北アルプス立山連峰の浄土平(標高2839.1m)にあります。図1は,2014年9月27日22時2分,施設の観測塔から南南西の夜空を撮影した写真です。秋の星座で唯一の一等星フォーマルハウト(みなみのうお座の恒星)と「つる座」の真下で,スカイラインから立ち上り左に長く棚引く煙が見えます。同日の真昼に死者57名,行方不明者6名にも上る大惨事にいたる水蒸気噴火を起こした御嶽山の噴煙です。
 このときの噴煙は甲府盆地まで達し降灰がありました。この写真データを用いた計測によれば噴煙の高さは山頂から約600mに達しますが,よく見ると高低2段になっています。実は,この写真の噴煙は肉眼では確認できていませんでした。火山の噴煙については,最近活発化している阿蘇中岳のマグマ噴火の噴煙を対象に,GPS観測で噴煙構成物質を評価する研究に取り組む予定です。

 

図2 白馬村大出地区で高さが倍加した地表地震断層(撮影:竹内 章)

 2014年長野県北部地震

 2014年11月22日22時08分に長野県北部の深さ5kmで発生した地震は,気象庁マグニチュードMJMA6.7,震源は糸魚川静岡構造線を構成する神城断層でした。最大震度は小谷村・小川村の6弱でしたが,地表地震断層(図2)沿いの白馬村(震度5強)で震害が甚大でした。また,石川県能登地方の震度4に対して,富山県南部,岐阜県北部が震度1であり,この顕著な差は,地震波の到達経路が北アルプスの火山帯の陰となるかどうかで決まったと考えられます。国土地理院のGNSS観測(米国のGPS衛星だけでなく欧・露の測地衛星も利用する観測システム)によると,本震の発生に伴う地殻変動は,震央近傍の白馬電子基準点で南東方向に約29cm移動,上下方向では約12cmの沈降が検出されました。
 この地震について,気象庁から緊急地震速報(警報第1報)が発表され,富山市では約5秒後に主要動が到達しました。地震発生を受けて竹内研究室では,翌朝,長野県小谷村にGPS地殻変動観測点を設置しました。この場所を選んだ理由はつぎの3つです: (1)これまで毎年5月の連休に行う短期観測を過去10年以上続けてきたこと,(2)1995年阪神淡路大震災を契機に日本列島に展開されたGPS衛星による地殻ひずみ観測網のデータから,白馬盆地周辺での地殻ひずみ集中が指摘されていたこと,(3)今回のようなM6級の地震では糸魚川静岡構造線に蓄積されているエネルギー(M7.5〜8.5)は解放されないこと,です。 内陸活断層として最大の地震発生確率(30年確率で14%)を示す糸魚川静岡構造線中北部の全体が動くと想定されます。この構造線は,およそ2800万年前以降の日本列島の形成過程で島弧系を東西に2分し,さらに現在はユーラシアプレートと北米プレートの収束境界とされている大断層です。
 なお,小谷村の臨時観測点は2015年1月27日現在も観測を継続中ですが,この豪雪地帯では頻繁に除雪しなければならず,遠隔地で冬季の観測点維持は苦労を強いられています。

 

図3 立山浄土観測点における過去9年間の地殻変動の時系列

 立山浄土観測点でのGPS観測結果について

 富山大学立山施設では,GPS衛星測地観測が始まり,地球科学科の学生や本学ワンダーフォーゲル部の協力を得ながら毎年夏季数日間の短期観測を続けてきました。その間,冬季の電源確保に関するさまざまな試行錯誤を繰り返し, 2011年秋からはようやく太陽光パネルによる通年観測システムが整備できたことで,GPS受信機の電源として重いバッテリーを毎回担ぎ上げるような苦労がなくなりました。
 2005年7月から2014年10月10日まで,東北地方太平洋沖地震前後の約9年間について,立山浄土観測点で得られた絶対座標変化の時系列図を示します(図3)。ただし,2010年は残念ながら観測機器の故障でデータが取得できませんでした。この観測点では冬季にアンテナが雪で覆われてしまう欠点があり,図3では,この影響による異常値を一定除去しています。またGPS測地観測では,一般に水平変位よりも上下変位の決定精度が落ちます。
 浄土観測点の地殻変動について,東北沖地震の以前はゆっくりした南東への水平移動と隆起(南へ1.3±0.1cm,東へ0.9±0.2cm,上へ0.9±1.0cm)でしたが,この傾向は,1996〜2004年の期間でも確認されていました(道家ほか,2008)。東北沖地震時には,浄土観測点は北へ2.03cm,東へ28.5cmと大きく東北東へ移動し,隆起も3.5cm以上と考えられます。その後2014年10月までの変動は,南へ1.4±0.1cm,東へ6.2±0.1cm,下へ1.0±1.0cmとなり,とくに東進傾向の加速と,隆起から沈降傾向への転換が顕著です。

 

 東北沖地震以降後の浄土観測点の沈降傾向について

 東北沖地震以降後の浄土観測点の沈降傾向については,奇妙なことが2点あります。ひとつは,とくに2014年に加速され, 地震時の隆起がほぼ回復したこと。もう1点は,近傍の立山室堂平にある国土地理院の立山A観測点(標高2432.6m,浄土観測点との距離1.473km)が東北沖地震以降も隆起傾向にあることです。
 この立山浄土観測点の挙動にはどんな意味があると考えられるでしょうか。実は,東北地方太平洋沖地震後に,関東から甲信越地方にかけて東北沖地震の震源からドーナツ状の隆起域が見られ,立山A観測点はその広域的傾向に調和する変動です。したがって浄土観測点の挙動は局所的と言えます。そこで非常に気になる事象があります。それは,過去少なくとも80年間は湛水状態が継続していた立山カルデラの新湯地獄で,突然,2013-2014年の冬季から湯だまりが枯渇し間欠泉になったことです。立山カルデラ砂防博物館の現場観測によれば,2014年の夏季〜秋季は数日の間隔で渇水と湛水が繰り返していたとのことです(福井幸太郎氏私信)。
 確実なことが推測できるようになるためには,少なくとも中部地方全体をカバーする範囲で長い時間をかけた地殻変動のデータが必要でしょう。しかし,ときには過去の事例も推測に有効です。
 3.11の東北地方太平洋沖地震は,869年の貞観地震と場所も大きさもほぼ同じであったことが指摘されています。2004年,2007年には中越地震や中越沖地震,2011年には信越地方で地震が起きましたが,9世紀後半にも富山,中越や羽越,信越などで地震が起こっています。貞観地震の18年後,887年に東海・東南海・南海地震が発生し,その前後に,富士山,新潟焼山,鳥海山,伊豆大島,新島などが相次いで噴火しました(津久井ほか2008)。
 2011年の長野県北部地震や静岡県東部地震,黒部ダム上流の地震,2014年の御嶽山噴火,長野県白馬村の地震,乗鞍岳・焼岳の地震活動,そして立山火山での地獄谷や新湯地獄の変動は,東北日本太平洋沖地震で一挙に東に移動した影響を示しています。すなわち,日本海東縁や糸魚川-静岡構造線に沿って隣接するユーラシアプレートと北米プレートの境界を締め付けていたタガが,北米プレートと太平洋プレートとの境界で大きく滑ったために緩み,そのために地震やマグマ活動が起きやすくなったことを示唆しているようです。

 

文献:

・道家涼介,竹内章,安江健一,畠本和也,松浦友紀(2008):GPS観測データから見た北アルプス立山における最近の地殻変動,東京大学地震研究所彙報,83, 193-201.
・津久井雅志・中野俊・齋藤公一滝(2008):9世紀にアムールプレート東縁に沿って起きた噴火・地震活動について,火山,53, 79-91.


(理学部地球科学科 竹内 章・島田 亙)