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細胞の中を3次元で視る ‐電子顕微鏡を用いたコンピュータトモグラフィー

【生物学科】2013年12月

 先月の池本先生のトピックスで,ナノサイエンス・ナノテクノロジーのお話が出ました.今回は生物学の世界におけるナノテクノロジーとして,ナノスケールでの3Dバイオイメージングについて紹介します.ナノレベルでの構造(微細構造とよびます)の観察といえば電子顕微鏡です.しかし細胞の中の電子顕微鏡写真は2次元の世界というのが,従来の常識でした.このような固定概念を覆し,分子から細胞まで3次元レベルで見ようというのが電子線トモグラフィーの技術です.X線を用いた医療診断としてお馴染みのコンピュータートモグラフィー(Computerized Tomography: CT)を,透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)観察に組み合わせて行うものです.では両者がそれぞれどのようなしくみで,どのように結びつくのか,簡単に説明していきます.
 まず,医療用CTのしくみはどのようなものでしょうか.従来の一般的なX線CTでは,同一円周上に配置されたX線源と検出器が私達の体を回りながら,体の断面(すなわち2次元像)の様々な角度からの1次元の投影を得ます.コンピューターを用いた計算により1次元の投影を2次元に復元して断面(層)像を得ます.この技術がトモグラフィーで,1917年にRadonによって提唱された理論を用いて,1973年にX線CTとして実用化された技術です.トモグラフィーのトモはギリシャ語のtómos「切ること」から来ており,2次元の断層を意味します.こうして得られた2次元の断層像を積み重ねて3次元像を再構成しますが,この部分はトモグラフィーではありません.次に,TEMは生物学でどのように用いられるのでしょうか.試料としての生体組織や細胞の内容物が抽出されないように固定し,樹脂に埋め込んで数十nmという薄さの切片(超薄切片とよびます)を切って重金属で生体分子を染色し,可視光線のかわりに電子線を切片に通して透過像を見ることで,試料の内部構造を観察するのに広く用いられています.
 では,これらがどのように結びついて電子線トモグラフィーという技術になるのでしょうか.TEM観察では,切片を透過して来た電子線の投影像を得ますが,その投影像は最初から2次元画像です.顕微鏡観察ではTEM観察に限らず,一般的に試料を物理的に切ることにより得られた物理切片(physical section)の投影像を得ますが,これによりすでに断層像が得られているわけです.ならば,3次元像を得るためには,トモグラフィーを用いなくても上述のX線CTのように2次元の断層像を積み重ねて3次元像を再構成すれば良いのではないか,と思われるかもしれません.たしかに,顕微鏡観察でも光学顕微鏡の場合は普通にそれが行われていますし,分解能の観点からもそのレベルで十分です.TEM観察の場合でも,熟練技術を必要としますが,連続的な超薄切片を切って積み重ね立体再構成することは行われています.しかし,TEMの場合,焦点深度が深く切片内部の全ての情報が2次元に投影されるため,切片平面上での分解能はナノスケールなのに,この方法では,深さ方向には切片の厚み(数十nm)以上の分解能が得られないのです.また,物理的に切片を切るという操作の際に,個々の切片の間の情報が抜け落ちることも問題となります.従って,これらの問題を回避して,深さ方向にナノスケールの分解能で定量的な解析を行うための技術として,電子線トモグラフィーが行われるようになったのです.電子線トモグラフィーは,2次元の投影像である電子顕微鏡画像から3次元の像を復元するという点で従来のX線CTと異なりますが,次元が変わっても基本的な原理は変わりません.
 さて,電子線トモグラフィーでは試料はどのように調製し観察するのでしょうか.目的がナノレベルでの精密な形態解析ですから,化学固定剤を用いた固定では役不足となり,組織を瞬間的に凍結させて固定する,急速凍結技法という技術を用います.これについてはまたの機会に紹介します.私達は急速凍結技法のうちの加圧凍結法を用いてタマネギ子葉の表皮組織を固定しています.試料を樹脂に包埋したのちに切片を切りますが,用意する切片の厚さについては,より深い所まで解析するのが目的ですから,通常の超薄切片より厚い切片を切ってTEM下で観察します.どのくらいまで厚い切片を観察できるかというと,TEMの性能としての加速電圧が関わります.数十nm程度の通常の切片では100 kV程度の汎用のTEMでよいのですが,より厚い切片の観察にはより高い加速電圧が求められます.私達の用いる試料の場合,250 nm程度までなら300 kVで十分ですが,0.5あるいは1 µmの厚さとなると,生理学研究所の1000 kVのものや,あるいは大阪大学超高圧顕微鏡センターの3000 kVのものというような,専用の建屋を備えた大がかりな超高圧電子顕微鏡(High voltage electron microscope)が必要になります.このようなTEMの中で様々な角度,例えば1度刻みで切片を傾けて連続傾斜画像を得ます.実際には切片をグリッドとよばれるものに載せていますから,一般的に傾けられる角度は±60°程度の範囲になるため,実現できない傾斜角度における画像情報が欠落してしまいます.そこでその欠落の程度を軽減するために,直交する2つの傾斜軸で行い,2つのセットを組み合わせる2軸電子線トモグラフィーも行われます.こうして得た二次元の傾斜画像は,フーリエ変換後フィルタリングし,逆投影という計算をすることで,試料を格子状の要素(ボクセル)に分割した場合の各要素における電子線吸収効率を計算し,元の三次元像を復元します.得られた三次元データはトモグラムとよばれ,これからソフトウェアを用いて1ピクセルの厚さで任意の方向から二次元のスライス(トモグラフィック・スライス)を切り出すことができます.
 では実際に私達が電子線トモグラフィーを行った研究を紹介します.植物の細胞は,分裂後も細胞壁によって,お互いの位置関係が固定されるため,どの方向に分裂するかという,細胞分裂面が入る位置の制御が,植物の成長方向や形作りにとって大変重要となります.植物細胞が分裂を行う際,分裂に先だって,分裂面の予定位置に分裂準備帯(Preprophase band: PPB)とよばれる微小管の帯を形成し,分裂面の決定に重要な役割を果たすと考えられています.PPBは分裂期の前期に形成されて前中期に消失しますが,PPBの存在していた位置に,分裂後に細胞を隔てる役割をする細胞板が挿入されることから,細胞板の挿入に必要な因子がPPBの位置に蓄積されると考えられています.1970-80年代のTEM観察によりPPBの近傍には小胞が観察されており,その形成に何らかの役割を果たしていると推測されていました.そこで私達は,分裂準備帯における小胞輸送を微細構造レベルで解析し,小胞の形態の識別,小胞分布の定量的な解析により本当に小胞がPPBに特異的に局在するのかについて検証しました.その結果,分裂準備帯においてはクラスリン被覆を持つ小胞がPPBに局在し,PPBにおいてはエンドサイトーシス(小胞による細胞膜から細胞内への分子の取り込み)が活発に起こっていることが示されました.このエンドサイトーシスがPPBの発達や機能に果たす役割を明らかにすることが今後の課題です.

 

参考文献
Karahara, I., Suda, J., Tahara, H., Yokota, E., Shimmen, T., Misaki, K., Yonemura, S., Staehelin, A. and Mineyuki, Y. (2009) The preprophase band is a localized center of clathrin-mediated endocytosis in late prophase cells of the onion cotyledon epidermis. Plant J., 57, 819-831.



図1 タマネギ子葉表皮における前期後半の細胞表層の電子顕微鏡像(トモグラフィック・スライス).(a)分裂準備帯を含むスライス.(b) (a)と同じ部分のトモグラフィーに基づく3次元モデル.ccv, クラスリン被覆小胞(明るい赤); ccp, クラスリン被覆ピット(濃い赤); mt, 微小管(紫).Bar=1 um.(Karahara et al. (2009)を改変)

(生物学科 唐原一郎)