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ムール貝の熱ショック蛋白質 (Hsp70) を用いた海洋汚染のバイオモニタリング法の開発

【生物圏環境科学科】2013年9月

図1. 富山湾に生息するムラサキイガイ (上) と
ムラサキインコガイ (下) の貝殻。

 一般にはムール貝として知られているイガイ科に属する二枚貝は, 富山湾だけでなく, 世界中の沿岸域に生息しています。富山湾の沿岸域にはムラサキイガイ (Mytilus galloprovincialis ) やムラサキインコガイ (Septifer virgatus ) などが多数生息しています (図1)。これらのイガイ類は, 鰓で周囲の海水をろ過して海水中の有機物や微細藻類などを食物として摂取しているため, それと共に海水中の汚染物質を取り込み, 体内に蓄積しやすいと言われています。そのため, 沿岸域海水中の汚染物質のモニタリング生物 (バイオモニタリング) として注目されています。そして, イガイ類の体内の汚染物質の量を測定して, 世界的な海洋環境のモニタリングを行うInternational mussel watch projectやAsia-Pacific mussel watch programが実施されています。しかし, 富山湾をモニタリングする定点は, 能登半島の先端付近に1ヶ所あるのみで, この海域をモニタリングするには不十分だと思われました。そこで, 我々は, 富山湾に独自の15定点を設け, 富山湾での海水汚染をモニタリングするための研究を始めました。

 生物は, 様々な環境の変化に曝されながら生活をしています。特に沿岸域に生息する生物は, 潮汐による乾燥, 温度や塩分濃度の変化などの自然のものから, 汚染物質 (重金属や化学物質) の流入といった人為的なものに曝されやすいと考えられます。これら環境の変化は, その水域に生息する生物にとってストレスとなり, その生存すら脅かす可能性も考えられます。しかし, 生物には, その様なストレスを回避する方法 (防御機構) が体内に備わっています。その1つに生体内で発現させるストレス蛋白質があります。ストレス蛋白質には, 重金属をキレートして無毒化させるメタロチオネインや体内に取り込んだ化学物質を体外へ排出するP-gpなどが知られています。近年, バイオモニタリングの手法として, 汚染物質に曝されたときに発現量が増加する上述のストレス蛋白質の量を測定する方法に注目が集まっています。そこで, 我々は, ストレス蛋白質の1つである熱ショック蛋白質 (Heat shock protein) Hsp70に着目しました。Hsp70は, 生物が高温に曝されたときに発現量が増加する蛋白質として知られており, その発現によって, 蛋白質を変性から防御したり, 変性した蛋白質を修復したりしています。また, 高温ストレスだけでなく, 重金属や有機塩素化合物など様々な汚染物質に曝されることでも発現量が増加することが報告されています。そのため, このHsp70の発現量の変化を調べることで, 海水中の汚染物質の有無をモニタリングできるのではないかと考えました。また, 近年, ムラサキイガイにもHsp70が存在するという報告がなされており, その遺伝子の塩基配列も明らかになりつつあります。そこで, 我々は, 富山湾に生息するムラサキインコガイについて, 抗原抗体反応を利用したWestern Blotting法で調べてみました。その結果, 常時発現しているHsp70を2種類持っていることや, それらの発現量が季節変動すること, さらには高温曝露によって増加することを発見しました。そして, ムラサキインコガイの鰓からmRNAを抽出し, 逆転写PCRによってcDNAを合成し, その塩基配列を解読したところ, 2種類のうちの1つのHsp70遺伝子の全塩基配列を解読することに成功しました (図2)。ムラサキインコガイのHsp70遺伝子の塩基配列についてはまだ報告例がなく, これが世界で初めてのものと考えられました。今後は, 研究室内で様々な汚染物質を曝露した際の発現量の変化や, 各地点に生息するムラサキインコガイのHsp70の発現量の違いなどを詳しく調べ, 富山湾の海水汚染のバイオモニタリングに使用することを検討していきたいと考えています。


図2. ムラサキインコガイの鰓のHsp70遺伝子の塩基配列と予想アミノ配列。


(生物圏環境科学科 酒徳 昭宏)