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新規な含ホウ素化学センサー色素の開発

【化学科】2013年8月

 私たちの身の回りには、たくさんの化学物質があります。また、私たち自身の身体も様々な化学物質からできています。環境中や生体中における化学物質の分布や動態を知ることは、私たちの生活をより安全・快適にし、また生物学や医学に貢献することが期待されます。しかしながら、これらの化学物質は必ずしも目でみてわかるものばかりではありませんし、生体中の化学物質の多くは、そのままでは検出や観測が困難です。
 ここで役に立つのが、他の化学物質と反応することで色や蛍光などの物性が変化する、化学センサー化合物です。わかりやすい例としては、リトマス試験紙で用いられている染料である、リトマスがあります。リトマスに含まれる化合物は、酸塩基反応によりその色を赤あるいは青に変えることで、直接目でみてもわからない酸や塩基といった物質の存在を、目で見てわかるようにします。このような、他の化学物質の存在や量の情報を、色その他の物理的情報に変換する化学センサー化合物は、目に見えない、あるいは観測しにくい化学物質を、目で見える、あるいは観測できるようにする、すなわち化学物質の可視化の手段として重要です。
 私たちの研究室では、ベンゼンやアセチレンのようなパイ電子をもった有機分子と、酸素や窒素、硫黄などのさまざまな元素を、組み合わせて連結するなどして、すぐれた機能をもった新しい有機化合物を作り出すこと、またその構造と機能の関係を明らかにすることを目的として研究しています。私たちが最近報告した研究成果のひとつに、簡便に性質の調節ができる新規な含ホウ素化学センサー色素化合物があります(参考文献)。
 ホウ素(元素記号B)は周期表で炭素の隣に位置する元素で、身近なところでは耐熱ガラスや害虫駆除剤(いわゆるホウ酸団子)などに用いられています。また、2010年にノーベル化学賞を受賞された鈴木章先生が開発された鈴木・宮浦クロスカップリング反応において、ホウ素化合物は重要な役割を果たしています。ホウ素原子は、通常3本または4本の共有結合を他の原子との間で形成しますが、ホウ素が3本の結合をもつ化合物は、ホウ素上にもう一つ電子対を受け入れてホウ素が4本の結合をもつ状態に変化できる余地があるため、非共有電子対を与える化学種(ルイス塩基といいます)とよく反応する性質があります(図1)。ホウ素化合物とルイス塩基が反応するとその物理的性質が変化することを利用して、近年、フッ化物イオン(F-)やシアン化物イオン(CN-)などのルイス塩基を検出できる、含ホウ素化学センサー化合物が種々開発されています。
 私たちは、そのような含ホウ素化学センサー化合物のひとつである、トリアリールボランの分子構造や性質を簡便に調節できる手法を開発しました。私たちが新規に開発した、分子の周辺部にアミノ基が置換したトリアリールボランを用いると、アミノ基の特徴である、窒素を含む二重結合(C=NおよびN=N)を簡単な反応で容易に形成できる性質を活用して、異なった構造のパイ共役系を有し色などの性質が異なる種々のトリアリールボランを簡便に合成できることを明らかにしました(図2)。この成果を応用することで、さらに便利で高機能な化学センサー化合物が容易に開発できるようになると期待しています。




図1 ホウ素化合物とルイス塩基の反応



図2 アミノ置換トリアリールボランおよびから簡便に合成できる誘導体の例

参考文献: Yoshino, J.; Nakamura, Y.; Kunitomo, S.; Hayashi, N.; Higuchi, H. Tetrahedron Lett. 2013, 54, 2817–2820.
(http://dx.doi.org/10.1016/j.tetlet.2013.03.080)

(化学科 吉野 惇郎)