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立山における黄砂を含む積雪層中の微生物

【生物圏環境科学科】2010年06月

 黄砂は、東アジアにある砂漠地帯や黄土高原において強風により舞い上げられた砂塵で、春を中心に東アジアなどの広い範囲へ編西風に乗って運ばれて来ます。この黄砂に微生物が付着して長距離輸送され、生態系やヒトの健康などに影響を与えることが懸念されています。私達は、黄砂に付着し、日本海を越えて長距離輸送される微生物の実態を把握することを目指して、立山における黄砂を含む積雪層中の細菌群集を、培養法と分子生物学的手法によって解析しています。過去2年間の解析から、微生物学的特徴が少し見えてきたので紹介します。

 積雪試料は、立山積雪調査(詳しくは2008年6月のトピックスをご覧ください)の中で、室堂平(標高2,450 m)において掘られた約6〜7mの積雪断面中の、黄砂を含む積雪層(黄砂層)と他の積雪層(ざらめ雪層、しまり雪層など)から採取しました(図1)。黄砂層からは、水平方向に離れた2〜3ヶ所から試料を採取しました。黄砂層は、目視で黄土色をしており、2008年3月2日〜4日と2009年3月17日〜19日に運ばれた黄砂を含むことが、黄砂観測データ等から推定されました。細菌の単離培養は寒天培地を用いて行い、分子生物学的手法としては変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法を用いました。DGGE法では、試料中の細菌のDNAをPCRで増幅した後、ゲル電気泳動にかけ、各細菌種を異なるバンドとして検出します。

 培養法では、 Bacillus属の細菌が黄砂層から最も多く単離されました。興味深いことに、細菌が共通して持つ遺伝子のDNA塩基配列が完全に一致し、同一クローンの可能性があるBacillus属菌も2008年と2009年の両年に黄砂層から単離されました。DGGE法でも、両年の黄砂層の泳動パターンは類似し(図2)、矢印で示す2本の主要なバンドの塩基配列がいずれもBacillus属と推定されたことから、Bacillus属の細菌が優勢に存在していたことが示唆されました。従来の研究においても、国内外の黄砂試料からBacillus属の細菌が多く検出されていますので、立山の黄砂を含む積雪層中の細菌群集構造を解析することは、黄砂に付着して長距離輸送される微生物の実態把握に有用であると考えられました。今後も、このようなモニタリングを継続することで、黄砂によって運ばれる特徴的な微生物や、それらが生態系等に及ぼす影響などについて、さらなる知見が得られるものと期待しています。


(生物圏環境科学科 田中大祐)