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陸生適応のカギとなるか?オーストラリア肺魚は上皮性Naチャネルを発現している

【生物学科】2013年01月

 動物の細胞が正常に機能するには、生息する外部環境が異なっても細胞をとりまく内部環境の恒常性(体液恒常性)が保たれていることが重要である。体液量や体液浸透圧は、腸管、腎臓尿細管などの上皮組織におけるNa輸送に基づいた細胞外液Na量により調節されている。本稿において、脊椎動物の体液調節機構の進化を探るため、上皮組織を構成する細胞の頂端膜に存在してNa輸送に関わる上皮性Naチャネル(ENaC))について調べた我々の研究を紹介する。

 脊椎動物の進化史上において最大の出来事の一つは、古生代デボン紀末期に陸上脊椎動物(四肢動物)の祖先が上陸して、水生から陸生に生活の場が広がったことである。陸生へ進化した際の骨格や歯列が関わる進化については、化石資料から類推することが可能である。しかし、水生から陸生になった際の体液恒常性などの進化については神経や内分泌器官など軟組織が関与する。これらについては化石資料から判断することは難しいため、現存する動物種を調べることによって類推するのみである。四肢動物の祖先は、シーラカンスや肺魚を含む肉鰭類と呼ばれるグループである。古生代デボン紀(4.16億年から3.57億年前)の初期に古代の魚類から、主要な魚のグループである硬骨魚類(条鰭類)と肉鰭類が分岐したと考えられている。

 上皮性Naチャネルは、四肢動物の上皮細胞の頂端膜に発現しており、Na輸送に機能する。これまで、原始的な有尾両生類を含む四肢動物において発現していることが示され、体液調節に重要である可能性が示唆されている。一方、硬骨魚類にはENaCを持つとの報告が無く、ENaCが欠損している可能性も考えられている。

 我々はオーストラリア肺魚(図1)からENaC相同な遺伝子を単離して、四肢動物の既知のENaCと比較した。その結果、肺魚ENaCはα、β、γサブユニット構造から構成されており、分子系統解析などの結果からENaC/Degファミリーに属していることが明らかになった(図2)。また、肺魚ENaC mRNAの組織発現をRT-PCR法により調べたところ、体液調節に関わる鰓、腎臓、大腸後部に強く発現していた(図3)。次に肺魚ENaCが機能的であることを調べるため、アフリカツメガエル卵母細胞を用いた機能解析(各サブユニットの相補的RNAを微量注入して卵細胞膜上にENaCタンパクを発現させる)により、電気生理学的解析を行った。その結果、肺魚ENaCを発現した卵はNa輸送を行っており、Na輸送阻害剤を同時に処理することによって輸送が抑制された(図4)。ENaCαサブユニット抗体を用いて免疫組織化学的観察を行ったところ、鰓細胞と腎臓遠位尿細管細胞と大腸後部を構成する細胞の頂端側細胞膜に免疫陽性反応が観察された(図5)。これらの実験結果から、オーストラリア肺魚が水中で鰓のENaCによりNaを吸収し、腎臓尿細管と直腸の上皮細胞に局在するENaCによりNa吸収・再吸収していることが示唆された。また、肺魚は硬骨魚条鰭類が持たないレニン・アンギオテンシン―ミネラルコルチコイド(アルドステロン)系を発達させていることが知られている。したがって、原始四肢動物は陸生を始める以前に、アルドステロンにより調節されるENaCを経由するNa輸送を行っていたことが推察された。


   

図1. オーストラリア肺魚


図2. ENaCα、β、γサブユニットの近隣結合法による系統解析は、肺魚ENaCが四肢動物の各サブユニットに相同であることを示した。



図3. RT-PCR法によるENaC mRNAの組織発現解析の結果から、各サブユニットが鰓、腎臓、大腸後部で強く発現していた。


図4. 卵母細胞にENaCα,β,γ cRNAを微量注入させた電位変化解析からNa輸送が観察され、ENaCα単独や無注入ではNa輸送は見られない(A, B)。このNa輸送はアミロライド処理により阻害された(C)。



図5. ENaC免疫組織化学反応は、鰓(A)、腎臓遠位尿細管後部LD(B)、大腸後部(C)の構成細胞の頂端膜・管腔側膜に陽性反応(矢印)が観察された。腎臓遠位尿細管の細胞には、Na+,K+-ATPase免疫陽性反応(D)が観察された。


参考

M. Uchiyama, S. Maejima,S. Yoshie, Y. Kubo, N. Konno & J. M. P. Joss (2012) The epithelial sodium channel (ENaC) in the Australian lungfish, Neoceratodus forsteri (Osteichthyes: Dipnoi). Proc. R. Soc. B. 279, 4795-4802.

 

研究に関する問合せ先

内山実 大学院理工学研究部(理学)

TEL: 076-445-6633

E-mail: uchiyama(atmark)sci.u-toyama.ac.jp ["(atmark)"を"@"に置き換えて下さい]