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レアアースと磁性体―磁石のはなし(磁性体と超伝導体)

【物理学科】2012年12月

 最近地球上での存在量の少ないレアアースが話題になっていますが、レアアースは磁性体材料としての非常に重要です。磁性体はいわゆる磁石ですので、磁石の話をしましょう。地球自身も1つの大きな磁石と見ることができますし、北の方位をしめすコンパス(磁針)も小さな磁石です。小学生の時に釘に銅線を巻いてそれに乾電池をつないで鉄を吸いつけて遊んだ記憶もあるかもしれません。これは電磁石です。少し古い話ですがウォークマンという携帯用の音楽プレイヤが発売され大人気になりましたが、ここでも磁石が主役です。当時の最強の磁石であるサマリウムコバルトを用いることにより極小のスピーカーで良質な音楽を提供できたのです。サマリウムコバルト磁石は、文字通り、サマリウム(Sm)とコバルト(Co)の化合物です。サマリウムは化学的には希土類金属の1つで、社会的経済的には希少金属の1つです。最近では世界最強のネオジム磁石が有名です。中学校や高校での科学実験で使われているのも見たことがあるかもしれません。ネオジム磁石は日本人の発明によるもので、ネオジム(Nd)と鉄(Fe)とホウ素(B)の化合物です。ネオジムも希土類金属で、希少金属の1つです。ネオジム磁石は極端に強力な磁石なので間違った扱いをすると危険です。


 通常、磁石はN極とS極が引きあう性質に注目します。しかし、N極とN極を近づけると反発するのは皆さん当然のこととしてご存じでしょう。この反発を利用して列車を浮かせてしまうのが磁気浮上列車です。列車に乗せる磁石とレールに敷く磁石を使って反発させます。使われる磁石の種類によって世界ではいろいろな磁気浮上列車があります。世界的に有名な山梨県の磁気浮上列車はリニアモーターカーと言います。ここでは磁石が重要な働きをしています。超伝導という言葉は電気抵抗が0になる現象として聞かれたことがあると思います。それに対して私たちが普段磁石と思っているものは電気伝導度が有限の値を持つ常伝導物質です。列車には超伝導磁石を積んで、レールには常伝導磁石を敷き詰めます。2つとも磁石は電磁石で永久磁石ではありません。常伝導磁石は銅線を巻いて作った磁石、超伝導磁石は超伝導線を巻いて作った磁石です。強力な電磁石にするためには大電流を流す必要がありますが、通常の導線では、大電流を流すと導線の抵抗によって発熱し、導線自身が溶けて切れてしまいます。したがって、抵抗値がゼロの超伝導線を使うと、大電流を流せて超強力な磁石が作れます。ただし、超伝導線でも臨界電流という上限値があります。他に、超伝導磁石を使って実用化されているもので有名なのが病院でいろいろな病気の診断に用いられているMRI(磁気共鳴画像)でしょう。私も1度だけ脳ドックで自分の脳の画像を録ってもらったことがあります。その時は綺麗な脳でした。MRIの原理は、簡単に言うと、人体の水(H2O)の中の水素原子(H)の原子核の磁気モーメントが磁界中で共鳴する現象を見ています。MRIで使われている磁石は殆どが超伝導磁石ですが、一部、永久磁石が使われています。


 超伝導磁石は実用的にとても有用なものですが、実は、臨界温度というのがあって、その温度以上では、常伝導になってしまいます。したがって、超伝導磁石として使おうとすると臨界温度より下げなくてはなりません。臨界温度が100℃以上だと室温でも使えて大変良いのですが、現在、室温超電導体は見つかっていません。現実的に使われているものはニオブチタンやニオブスズ等の超伝導線が使われており、通常、液体ヘリウム(沸点が絶対温度で-269℃)で冷却して使います。従って、連続的に使うためには、液体ヘリウムを継ぎ足していかなければならないという面倒さがあります。室温以上に臨界温度を持つ室温超伝導体の発見が低温研究者の1つの大きな目標です。最近、新しい超伝導体が種々発見されていて超伝導分野の研究がかなり盛り上がっています。


 強い磁石の話ばかりをしてきましたが、ちょっと目先を変えてトランス(変圧器)の話をしましょう。トランスは交流の電圧を変換するものです。実はどこにでも使われているのですが派手なものではありません。町の電柱の上に300 Vから100 Vにするトランスがぶら下がっているかもしれません。トランスには1次コイルと2次コイルがあります。1次コイルで発生した磁界を2次コイルが電磁誘導で拾います。このとき磁界を効率的に伝えるために磁性材料が使われます。ただし強力な永久磁石ではありません。交流ですからN極とS極の反転が瞬時に行われなければなりません。このような性質を軟磁性と言います。強磁性体ですが、永久磁石ではないので軟磁性材料と言っています。地球磁場程度の極めて小さな磁界でN極とS極が反転します。この反転する磁界が小さいほどエネルギー損失が小さくなり、実用的には重要な材料です。


 私たちはこのような磁性の基礎的研究を特にレアアースを含んだ物質を対象に行っています。磁性の歴史は長く応用研究でも基礎的研究でも幅広く、多種多様にわたっています。その中で、磁性の起源について少しだけ紹介します。導線のコイルに電流を流すと磁石になります。このコイルをソレノイドコイルと言います。原子核の周りに電子が回っているとこれも小さな磁石とみなすことができます。ソレノイドコイルから簡単に推測できるでしょう。原子核の周りの電子は綺麗に円運動をしているわけではありませんが、量子力学的には角運動量は保存されています。これは、でたらめに回っているようでその量(角運動量)は一定に保たれている、ということを教えています。すなわち原子は1つの安定した小さな磁石です。ただし原子核の周りには電子がいくつも回っていますので、それらがキャンセルして磁性がゼロになったり、強めあって結果大きな磁性が現れることもあります。この磁性が原子の軌道角運動量によって生じる磁性です。次に、電子にはスピン(自転)がありスピン角運動量によって磁性が生じます。太陽と地球との対応で考えると、軌道角運動量とスピン角運動量は地球の軌道運動と自転に対応します。更に、伝導電子のように金属中を自由に動き回る電子からも磁性が生じます。直観的には、一本の導線に電流を流しただけで周りに磁界が生じることは高校でも習ったかもしれません。電子の磁性を述べましたが、原子核にも核スピンがあり、核スピン角運動量により磁性が生じます。物質とはこれらの原子が1023個位集まってできているものです。2つの磁石を近づけたら強い引力や反発が生じることから容易に想像できるように、小磁石の原子が1023個も集まったら、それこそ多様な性質が現れます。我々の現在の研究分野では、小磁石と考えているものを局在磁性、物質の中を動き回っている磁性を遍歴磁性と言っていますが、絶対温度ゼロK(-273℃)近傍の極低温にしたり、強磁場中に置いたり、高圧力を加えたり、等々、極端な環境下で物質の新たな性質が出現します。局在電子だと思っていたものが遍歴電子に変わったり、磁性体であったものが高圧下で磁性が消失して超伝導体に発現したり、更に、高圧下で超伝導の臨界温度が上昇したりする現象が見つかっています。最近の活発な研究により、新物質が開発され多くの新奇な現象が発見されています。


立方晶HoFe2Zn20 の単結晶試料 立方晶HoFe2Zn20 の単結晶試料、レアアースを含む強磁性物質。
立方晶DyFe2Zn20の単結晶試料 立方晶DyFe2Zn20の単結晶試料
YFe2Zn20の単結晶試料 YFe2Zn20の単結晶試料
RT2Zn20の結晶構造の図 RT2Zn20の結晶構造の図


(物理学科 石川義和)